29回目 不良物件

「聞いているの!そこの悪役令嬢!」


「聞いていなかったわ…」


「きーーー!」


仕方が無いじゃない。

記憶を取り戻したのがついさっきなんだから。


毎回お約束の婚約破棄なんだろうけれど、今回は王子さまの隣にいる方が、大元気らしく


「私にしでかした事、無罪放免とはいかないわよ」


「はいはい」


「ちゃんと聞きなさい!」


なんだか語尾がすごく上がっている方ね。


「まず、私にお弁当を作ってくれましたね」


「…?」


「次に、私のためにおかしを作ってくれましたね」


「……??」


「参考書を渡して、相談に載ってくれましたね」


「………???」


「大変感謝しています」


「は?」


断罪か?


「ですから、なぜこんな不良物件を渡したのですか!」


「不良物件?」


「こちらです」


となりで呆けているのは、この国の王子。

ちょっと抜けているのは、この場にいる全員が知っている。


王妃の誕生パーティーで、呆けている王子が、大元気な令嬢を捕まえて


「悪役令嬢、神妙にお縄を受けろ~」


と言ったため。


時代考証も舞台も関係なしである。


後ろで、王妃が倒れそうになっている。


無論、支えているのは王さまである。


「返品不可で」


「では、返却で」


受け取る人は、この国の王太子である、呆けた王子の弟である。


「申し訳ありません↓」


とても、王太子とは思えない腰の低さである。


苦労人とも言う。


「はぁ~肩の荷が下りた~」


「疲れた。もうだめ、デザート食べる」


「あ、ちょっと私も!」


喉元過ぎれば熱さを忘れるならぬ、断罪過ぎれば甘い物食べたい(?)である。


頭脳労働には、甘いもの。


「少しいいですか?」


呼んだのは、王太子。


「「はい」」


「もしかして、仲良し?」


「「とても」」


そう、これは王子と婚約しないための茶番劇である。


いや、押し付け合いともいう。


それなりに良いところとくっついて親友と過ごせたから良しとしよう。


ちなみに、良いところには王族は入っていない。

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