第3話 忍び寄る影
工事現場でのヒロムといちごのやりとりを、モニター越しに冷たい瞳で見つめている一人の少女がいた。
薄暗い部屋に置かれた数台のモニター上では、二人の様子が、それこそ手に取るように映し出されている。その画像は、どこかに取り付けられたカメラが捉えたもののようで、工事現場全体を俯瞰視していた。
少女は手元のコントローラーを操作し、二人の表情をアップにする。耳につけたヘッドホンからは、音声センサーの捉えた二人の会話が筒抜けだ。少女はヒロムの顔を画面の中心にもってくると、ぽつりと呟いた。
「ふん、間の抜けた
画面を見つめる少女の肌は透けるように白く、艶やかな黒髪は腰まで伸ばされ、少しつり目気味な瞳は、子猫のそれを思わせる。
「待っていろ、
黒髪の少女は、誰に言うともなく口の中で呟いた。
***
「ヒロムがついに狙われたか」
白衣の老人はタバコに火をつけると、深く紫煙を肺に吸い込み、そしてゆっくりとはき出した。他の研究室は禁煙だが、この主任専用の個室には喫煙ブースが備え付けられている。ヘビースモーカーである老人が、その特権で無理やり作らせたものだった。
「しかしYFR15……、いちごが間に合ってほんとうに良かった」
喫煙ブースの反対側にいる中年の研究員が、自分のタバコの箱が空なのに気づき、それを握りつぶして脇にあるくずかごに放り込んだ。
「しかし、お義父さん。ヒロムにあのことを黙っているのはどうも……。私は父親としてやってはならないことをしているのではないでしょうか……」
「いや、ヒロム自身はあのことを知らない方がよいのじゃ」
「ですが、もう現実にヒロムは敵に狙われています。私はなぜヒロムが狙われなければならないかを、きちんと話しておくべきだと思うのです」
ふぅっと紫煙をはき出し、白衣の老人は目の前の研究員――自分の義理の息子――に語りかけた。
「お前の気持ちはよく分かる。だがヒロムはまだ子供じゃ。そんな酷な現実を突きつけられるには、幼すぎる。わしは話すことには反対じゃ」
「私は、自分の息子を助けたいばかりに……」
「決めたのはお前だけじゃない。わしも同意したし、何よりあの時は一刻をあらそう状態だったのじゃ。自分一人をを責める必要はない」
中年の研究員は黙って唇を噛みしめていた。
白衣の老人は、それを黙って見ているだけだったが、その瞳には家族を思いやる優しさが滲んでいた。
「……ところで、いちごの『護衛任務』についてですが……あれは本気なのですか?」
「当然じゃ。いついかなる時にネイバーに襲われても、ヒロムの身はいちごが護る。そのための配置じゃ。何か問題があるかの?」
絶対無敵!?いちごちゃん! 改訂版 東 尭良 @east_JP
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