ライダー少年と三つのしもべ

青葉台旭

プロローグ

 今から『ある少年』の物語を記述しよう。

 彼の本名を明かすことはできないが、かりに葫馬ひるま一郎いちろうと呼ぶ。

 十年前に出会ったとき、私は四十三歳で葫馬一郎は十六歳だった。(彼の自己申告が本当だとすれば、だが)

 日本人にしては背が高く手足が長く、まず美少年と言って良い端正な顔立ちをしていた。

 彼はホンダ・CBR1000RRRというバイクに乗って日本全国を旅していると言った。

 一方の私は当時キャンピング・カー生活を始めたばかりで、同じく日本全国を旅しながら記事を書いて雑誌の編集部へ送る生活をしていた。(そして十年経った今も変わらずその生活を続けている)

 私たちは旅先の小さな田舎町で出会った。

 彼と出会って以降、私の人生の道筋は大きく変わってしまった。良い方向へ変わったのか、それとも悪い方向だったのかは、未だ判断できずにいる。

 本題に入る前に、ここらで私自身の紹介をしておこう。

 私の名は薪舟まきふね滝基ろうき

 現在の年齢は、五十三歳。

 名刺には『ルポライター』などという肩書がられている。

 専門はオカルト。

 幽霊、妖怪、宇宙人、超能力者、闇の歴史、予言の書、陰謀論……オカルト・マニアが喜びそうな取材ネタがあれば、日本中どこへでも行って記事を書く。

 家族は無い。

 既に両親は亡くなっている。妻も若い時に亡くした。再婚はしていない。

 娘が一人いる……が、長いあいだ行方不明だ。

 この広い世界のどこかで幸せに暮らしている姿を想像し、そうであって欲しいと望まない日は無い。しかしその一方で、彼女と再会することはもう無いだろうとあきらめている。

 妻に先立たれ、娘と生き別れ、車の中で寝起きして食事をして原稿を書き、ずっと旅を続ける孤独な男。それが私の要約だ。

 ……そろそろ物語を始めよう。

 そのためには十年ほど時間を巻き戻す必要がある。

 私が四十三歳、娘の紗代子さよこが十五歳だったあの頃にさかのぼる。

 以下の文章で語りをしている『私』は、現在の五十三歳になった私ではなく、十年前の、当時四十三歳だった私だと思って欲しい。

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