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「私達が霊峰へ入ったのは迷宮化の調査をするためでした」
セーラさんは語る。
迷宮化の兆候――それは魔力が異様に増大化することを意味する。
地脈から湧き出る魔力は
その一つが、空間の歪み。
これが迷宮化と呼ばれる所以だ。今のところはその発生原因は分からず、解決の目処もたっていない。
世界各国にもいくつかこの迷宮化した場所は存在するが、そのどれもが未解決であるのが現状である。
「今回私達が受けた依頼は迷宮化初期段階での魔物に与える影響の調査かつその為の護衛というものでした」
「護衛……?――――ああ、調査団の護衛ですか」
と、俺は首をもたげたがそういえば王国には王立の調査団がいたなと思い当たる。
この迷宮化は世界的な問題となっており、国によって対策案が異なる。王国では一切の侵入を禁止し、調査団を派遣するというのが一般的だった筈だ。
「いえ……調査団ではなく、巫女様からの依頼でした」
「え?」
思わぬ言葉につい聞き返す。それが悪かった……。セーラさんは首を傾げる。
「その反応…。失礼ですが……巫様はお聞きになっておられないのですか?」
「……うぇ、えっと――――」
(まじかぁ……ここで巫女の名前が出てくるとは思ってなかった……。どうしよ……)
“巫女”というのは簡単に言うと巫を纏める役割を持つ者のことだ。
一介の巫はその巫女の命を受けて動く。例外はなく、その受けた勅命を背く者は剣を歩むが如しとまで言われ、厳しく罰せられる。
その為、巫がここにいるのならばそれは巫女の意志と同じことなのだ。知らぬ存ぜぬでは済まされない。
「その、巫も一枚岩ではないので……」
まったく言い訳が思いつかなかった……。目を泳がせる自分は相当怪しい者だろう。結局、ボロが出てるじゃねぇか。情けない。
「――――分かりました。では、この件に関してこちらから追求は致しません」
「えっ?」
「誰にだって言えないことはあります。これぐらいで恩人を疑うことは致しません。安心してください」
そういって優しく笑顔を浮かべる。なんと…なんと出来た人間なのだろうか。
怪しまれないようにと一つ一つの言動を考えていたが、まさかここまで見透かされているとは。彼女の方が何枚も上手だったようである。
しかし、うまくポーカーフェイスを貫けていると思っていたのだがまったくの無駄だったらしい。くそ……なぜバレたんだ。あ、尻尾か。
「話を戻しますが……。私達のパーティと巫女様はこの霊峰へ入るなり、空間の歪みにより引き裂かれてしまいました。そして不運にもアレと遭遇し――――あとは巫様が想像する通りでしょう」
彼女の話を整理すると。セーラさん率いるパーティとその依頼主たる巫女は一緒にこの森に入った。そして、調査を開始するなり彼女たちは歪みによって引き離され今に至る…と。
「――――では、今この森に巫女…さまもいるということですか?」
「いえ。恐らくは脱出しているかと思います。パーティが分裂した時点で依頼続行は不可能ですので、私達のように非常事態が起こらぬ限りはこれを使って森を抜けている筈です」
そういって彼女は荷物の中から何かを取り出す。それは手のひらにちょうど収まるぐらいの円盤状のもの。
形が一番近いものを例に挙げるとすれば……時計、いや方位磁石だろうか。
「これは迷宮化した場所へ足を踏み入れた際に、迷わず出口まで辿り着くための必須アイテムです。高価なものですが……冒険者ギルドには必ず常備されています。今回の依頼でもリーダーである私と巫女様には1つずつ貸与されています」
「……なるほど。アーティファクトですか」
アーティファクト=人工遺物。それは古の技術を元に作られたカラクリ道具。その価値は相当なもので市場にも一切出まわらない代物。それを失うだけでもかなりの損失となろうものを貸し出すとは、彼女はギルドからかなりの信頼を得ていると考えられる。
「明日の早朝。これを使って森を抜けようと思います。その時は巫様ももちろん……」
「はい。同行させてください」
渡りに船の申し出にノータイムで首肯する。そして……。
「わたしも冒険者ギルドに用事がありますので、ついでに連れて行ってくれると助かります」
「承りました」
これで話は決まった。
上手く行けば明日の午前中には町につくらしく、その足で冒険者ギルドへと報告へ行くそうだ。俺はそれに同行させてもらうこととなった。
(巫女の存在が気がかりだが……)
正直なところあまり会いたくはない存在だ。巫女や巫にはいろいろとしがらみが多く……頭が硬い者も多い。それが決して悪いわけでもないが……。
(明日がどう転ぶか、分からんな……)
数が少ない同業者にハチ会うなんてそうそうないだろうとタカをくくていたのだがうまいこと宛が外れてしまった。
とりあえず、どうにか町には着けそうだと気を取り直し、今日はゆっくりと休むことにした。
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