第3話 出発前のやり取り

「はぁーーーーー。訓練がしたかった。」




母親達とエリスの策略?により訓練時間が無くなり二人で三日市に行くことになった。


別にエリスと行くのが嫌なわけでは無いのだが、訓練が出来ないのもまた辛い事ではあった。




「しかし、エリス遅いなー。準備にどれだけ時間掛けてんだ?三日市で遊ぶ時間無くなるぞ。」




男であるクライスには女性の準備時間の長さが理解できていなかった。


そもそも、10歳の少年が理解している方がおかしいほうである。




「仕方ない、迎えに行くか。」




クライスは待ち切れなくなったのか、エリスの部屋に行く事にした。


そして、エリスの両親が営む宿屋に入る寸前に宿屋のドアが開いた。


ドアから出てきたのは宿屋を利用する冒険者の一人だった。




「あら~~。クライス君じゃない。今日は訓練してないの?」


「こんにちは、サーヤさん。本当は訓練がしたかったんですが、エリスと三日市に行く事になってしまいまして。」


「あ~~、成程ね~~。それでエリスちゃんご機嫌だったんだ~~。」




気だるそうにしゃべる女性は冒険者のサーヤ。


普段は女性だけの4人パーティーでレンジャーを担当している。


普段は抜けている様に見えるが、仕事とプライベートを完全に分けるタイプらしい。


時折街中で見かける時があるが、依頼帰りなのか神経を研ぎ澄まし普段とは違い必要最低限の言葉しか話さない。




「今日は、一人なんですか?」


「そうなのよ~~~。今日は休暇にしてるから、別行動よ~~。」


「今から何処か出かけるんですか?」


「私も~、今から三日市に行くのよ~。三日市には掘り出し物がある可能性があるから見るだけでも楽しいのよね~~。」


「では、一緒に行きませんか?」


「う~~~ん。折角のお誘いだけど今回はやめとくね~~~。」


「どうしてですか?」


「折角のデートを邪魔したくないのよね~~~。」


「なっ!!!」




デートと言われてクライスは驚き顔を真っ赤に染める。


揶揄えたのが楽しかったのか、サーヤはクライスの反応を楽しそうに眺めて歩き出す。




「駄目よ~~~。折角のデートの前に他の女性を誘っちゃ~~。しっかり、エリスちゃんをエスコートしなさいよ~~。」


「デートじゃありませんよ!!」




クライスは必死に否定したが、サーヤは手をヒラヒラと振りながら人混みの中に消えていく。


クライスは行き場のない羞恥心をどうしたらいいのか判らず、拳を握りプルプル震えていた。


サーヤと戯れていた時間は短かったが、エリスが来るまでの時間つぶしは出来た様でリサがエリスを連れて出てきた。




「お待たせクライス君。エリスを宜しくね。」


「お待たせクライス。どうかな?」




リサの後ろに隠れていたエリスが姿を現す。


エリスは普段とは違い、何時もは降ろしてる髪をハーフアップに結い上げて耳には真っ赤に輝く小さめのイヤリングを付けていた。


服装は、何時もの動きやすいハーフパンツスタイルではなく淡いブルーのワンピースを着ていた。


何時もの活発な感じではなく、清楚で儚げなイメージが付きまとう令嬢に見えた。


その姿を見たクライスは思考が停止したのか、大きく目と口を見開いていた。




「クライス?」


「クライス君?」




二人の呼びかけに意識が覚醒したのか、頭を左右に振り感想を答えた。




「綺麗だよ。何時もとは雰囲気が違うから驚いちゃった。」




顔を真っ赤にしながら正直な感想をエリスに伝える。




「本当?良かった。この服お気に入りなのよね。」




エリスは満開の笑顔で微笑みクライスに近寄る。


エリスが近寄ると仄かに香る香水がクライスの鼻を撫でる。


一つ一つの仕草は普段と違わないが、何時もと違う服装と香りからクライスの心臓が跳ね上がる程に緊張してしまっている。


そうしてクライスの左腕に自分の腕を絡ませていく。




「じゃ、行きましょうか。しっかりエスコートしてよね。サーヤさんに言われてたでしょ?」


「なっ!!聞こえてたのかよ?」


「あれだけ大きな声で玄関前で話してたら聞こえるよ」


「ぐぬぬぬぬぬぬ!!!わかったよ。俺も男だ。今日一日は任せろ。」




クライスは必要以上に引っ付くエリスに戸惑いながらも答えていく。


しかし、顔は真っ赤であり更には緊張からなのか少し引き攣っている。




「気を付けて行ってらっしゃい。あまり羽目を外しすぎないようにね。」


「「はーーーい。」」




そうして、クライスはぎこちない動きでエリスは翼が生えているのではという程の軽やかな足取りで三日市が開催されている広場に向かい歩き出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る