序章
「既に、ここから持ち出されているらしいな。さもなくば、あの日の噴火で破壊されたか……」
一団の中で最も年上の男は、携帯無線機経由で伝えられ続けた仲間達からの報告を一通り聞き終えると、台湾先住民の言語でそう言った。
富士山の噴火で東京が……正確には日本の首都圏と静岡・長野・山梨の大半と中部地方の一部が……壊滅してから2年半。
ここに居る一団は、ようやく、この場所に来る事が出来た。富士山が吹き上げ続けてきた火山灰と火山性ガスも、やっと沈静化し、かつて、「東京」と呼ばれたこの地に、外部の者が合法的に出入りが出来るようになったのは、この年の1月からだった。
もっとも「合法的」と言っても、日本の三権の中央機関・最高機関と、その構成メンバーの大半は仲良く火山灰に埋まった為、「被災地域への立ち入りについて、今後は公的機関の許可は不要」と云う決定を下したのは、日本を暫定統治している国連機関と株式会社・日本再建機構だ。
そして、今、これらの機関を「不当に日本を占領している者達」と見做し、旧日本政府と富士の噴火まで日本の事実上の支配者だったアメリカ
「では、今、あれはどこに……?」
「まだ……存在しているとするなら……ここの関係者の足取りを追うしか無いか……」
「でも……どうやって……」
「続けるなら、先は長くなりそうだな……」
年老いた男は空を仰いぎ、溜息をついた。その男は知る由も無かったが、彼の視線の先に有る「青空」は、この「本物の東京」の地に、ひさしぶりに戻って来たものだった。
「仕方ない……戻るぞ。今回は諦めるしか無い」
リーダー格らしい男は携帯無線機に向かって、そう言った。
そして、神社内を調査していたらしいその一団は、かつての地下鉄・九段下駅の方向に歩き去っていった。
季節は春。
しかし、有りし日において桜の名所とされたその場所に、桜の花は、ほとんど見当らなかった。
長きに渡って、降り続けた火山灰と、火山性のガスによって生まれた酸性雨とによって、この近辺の植物の大半は枯死したのだ。
そして……その神社の入口付近にある青銅製の大鳥居と大村益次郎の銅像も、この地に降り注いだ酸性雨により、無惨に腐食していた。
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