第49話 さっさと乗ろうぜ。
「そういえば祐樹くん。この前のデートはありがとうございました」
クラッシュマウンテンの列に並び始めると、小暮が口をついた。思わず「うげっ」と声が漏れそうになる。
「デート……っ!?」
「あれ? 瀬川さん気になりますか? ていうか、知らなかったんですか~?」
「うぅ……べ、べつに? ゆ、ゆうがどこで何してようとわたしには関係ないし?」
瑞菜はぷいっと顔をそむける。
今更強がって何になるんだろうか、この幼馴染は。
それにしても、未だに両サイドから美少女に抱き着かれているこの状況。
周りの目が非常に痛い。いや、ほんとごめんなさいって。俺だってこんなやつがいたら恨みがましく見るし爆発しろって思う。でも、意外と居心地悪いものですよ? 正直今すぐ走って逃げだしたいですよ?
そもそもこれはお子様に見せていいものなのだろうか。少々教育には良くない気がする。
なにせ、夏服の彼女たちからはばっちりとその胸の感触までわかってしまうのだから。端から見ても、当たっているのなんて丸わかりだろう。
ため息もでるというものだ。
その間も、小暮と瑞菜の小競り合いは続く。
「デートで何したと思いますか?」
「だ、だからべつにわたしはどうでもいいしっ」
「あの日はですね~、一緒にお肉を食べて、ひまわり畑に行ったんです。ほら、これがその時の写真です」
「うぅ……」
「それから最後には、私の家にご招待したんですよ?」
「家まで……っ!? そ、それって……」
「あらあら、何を想像しちゃったんですか~? 言っておきますが、私は瀬川さんのようなビッチではないので何もいやらしいことはしてませんよ? いやらしいことは」
「わ、わたしはビッチじゃないし! ゆ、ゆう~~~~………っ!」
小暮に向かって吠えると、瑞菜は縋るようにこちらへ上目遣いを向ける。完全にいじめられっ子だ。弱すぎではないかこの幼馴染。
「あの、小暮さん? そろそろ弱い者いじめはやめません?」
「そうですね。祐樹くんが言うならやめましょう。弱い者いじめは楽しくありませんしね。戦うならもっと強い人がいいです」
「変わり身速すぎる……」
瑞菜が胡散臭気に呟くが、そもそも小暮にはもう何も隠す気がさらさらないように見える。以前よりも瑞菜に対する煽りは増していた。その様子は言葉とは裏腹にとても楽し気である。
「あとな、その、瑞菜……」
小暮とのデート。俺は瑞菜に対して何を語ろうとしたのか。
いくらでも弁解もとい言い訳のしようはある。そもそも俺はあの日、小暮含め店長の策略に嵌められている。上司から気遣わし気に羽を伸ばしてこいと言われたら従うしかない。一種のパワハラではなかろうか。小暮にいいように操られている店長は一度痛い目を見てほしい。
と、心の中では色々あるもののやはり、その先の言葉はやっぱり見つからなかった。
「お次3名様、ボートが分かれてしまうんですけどいかがいたしますか? 次のボートを待つこともできますけど……」
しばらくすると、アトラクションの順番が回ってきた。どうやら、目の前に来ているボートは丁度最後列しか空いていないらしい。そこに乗れるのは二人。つまり、一人は違うボートに乗ることになる。
また、両サイドから発せられるピリリとした緊張感が俺を襲う。
次を待ったとしても、どうせ一列に乗れるのは二人だ。同じボートであろうと、一人は違う列に座ることになる。
それは3人で行動する限り付きまとうことになる宿命とでもいえようか。
「……じゃあ彼女たちが先に――――」
「――――祐樹くん?」
てめえふざけんじゃねえぞ、とでも言いたげなにっこり笑顔。
「ゆ、ゆう……?」
こっちはこっちで、不安そうに俺の服を摘まむ。
「え、えっと……」
もはや、そこに言葉の応酬はない。
まるで、俺にすべてを委ねるかのように二人は無言を貫いた。
時間はない。アトラクションの流れを止めることになってしまう。
こんなところで何かを決めてしまっていいのだろうか。いや、たかがアトラクション。それが何かを決定づけるものではない。次のアトラクションでは違う組み合わせで乗ろう。そんな曖昧な方法だってある。
それでも――――
「あーオレ、ひとりなんですけど、そこいいっすか?」
「「「え?」」」
3人の声が重なる。
「お、おま……」
「ほれ北見、さっさと乗ろうぜ。オレと二人で」
突然割り込んだそいつに背中を押される形で、彼女たちを置き去りに俺はアトラクションに乗り込んだ。
「悪いねお二人さん、こいつちょっと借りるわ〜。アデュ~」
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