第58話 乙女の少し03
「ごめん」
帰り道。
途中で寄った喫茶店。
四谷は何時もよりしおらしかった。
ちょっと可愛い。
フルーツティーを飲む僕。
四谷はココアだ。
ん。美味しい。
行きつけの喫茶店だけど、何を頼んでもクオリティが高い。
さすがに金を取るだけはあって、プロの仕事とはこの事だろう。
「でもまぁ……キスはやりすぎ」
恋人でもないのに。
いや、仮にコレがルリなら勇んで喜ぶところだけど。
――何が哀しゅうて親友とキス?
「だからごめんって」
「いいんだけどね」
「許してくれるの?」
「目くじら立てるほどでもないかな」
たしかに実力で排除するにはインパクトも必要だ。
男子生徒の喰い下がりを見るなら、僕とのキスは恋心を諦めさせるに十二分ではあっただろう。
問題はここから僕の評判がどうなるかって話なだけで。
むしろ四谷はキョトンとしていた。
「司馬さんと?」
「んにゃ?」
――何故そこでラピスの名前が出る?
確かに接触過多ではあろうけども。
「……………………」
何やら疑っているようだ。
何を疑っているのかまでは興味の範囲外。
別に僕は悪いことをしておりません。
そんな僕に「あのさ」と声をかける四谷。
「付き合わない?」
「男女の?」
「し……」
……ふむ。
「そのね」
「そのね?」
「これでもモテるの」
「謙遜しなくてもモテるでしょ」
「だから夏休みはお誘いがいっぱい来るし」
「ラインのIDも出回ってるしね」
「だから彼氏が居れば牽制になるじゃん?」
あー。
そ~ゆ~アレ……。
「駄目し?」
「とは言わないけど僕で良いの? 僕だよ? ぶっちゃけ……」
「良いし……」
「釣り合ってない気がするんだけど」
「そう?」
「久遠の方がイケメンじゃない?」
「アイツは……ちょっと……」
むずむずと四谷の唇が波打つ。
あえて聞くまい。
「本当に僕で良いの? ぶっちゃけイモくない? もうちょっと言い訳に使えそうなイケメン引っ張った方が宜しいのでは?」
「そんなことないし!」
少し声が荒らげられる。
「おちけつ」
「……………………」
ココアを飲んで一息。
「で、司馬は結構格好良い」
結論がそれですか。
泣いていい?
「何も努力はしてないけどね」
「そりゃお洒落じゃないけど」
喧嘩売ってるのかな?
自認はするところで図星でもあるから反論も醜いだろうけど。
「清潔感があるから」
清潔感。
お洒落以上に女子好感度に必要な条件らしい。
「あんまり汗掻かないし?」
「生まれつきね」
「良い匂いするし」
「自分じゃわかんないなぁ」
「あとちょっと筋肉あるし」
「家事戦士だからね」
「だから結構高得点」
「何処から目線」
「あ……」
ビクンと四谷が震える。
「……やっちゃった?」
「いや、褒めてくれるのは嬉しいんだけどね」
四谷も垢抜けた美少女なので、好評価は素直に嬉しい。
それにしても然程アドバンテージでも無い気はする。
「だから練習恋人的な?」
「牽制と練習か」
「駄目……かな……?」
「ぶっちゃけ他に候補が要るだろって思うんだけど」
「いないし」
「ならいいけど」
「いいんだ?」
「要するに彼氏面してナンパを掣肘すればいいんでしょ?」
「そ~だけど」
何故に不満そうよ?
――そのシステムを求めたのでは?
――それとも僕が逸ったのかな?
ちょっと理屈はわかんないけども。
外面だけ見れば、詐欺の理論だ。
「むー。ちょっとは狼狽えるとか」
「四谷と久遠とは腐れ縁だからね」
本気で今更。
だからこそ信がおける。
今更恋仲になっても互いを知りすぎている。
緊張も気配りも、自然として対処できる次元の問題だ。
「司馬さん怒らないかな?」
アレのブラコンも大した物だしね。
「話はこっちで通しとく」
「にゃ」
四谷は頷いた。
メギドフレイムが四谷の上に降らないことを祈るばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます