第44話 アート=シルバーマン01
五月の名残の今日この頃。
一応学院も法人なので国策とは別に仕事もあり申して……そんなこんなの中間テストがやってくる。
「まぁやれと仰るならやりますけど」
ホケッと臨んだ御妹。
ラピスにとっては初歩も初歩で、ついでに知識と演算に関してはとても学生と比べられるはずもない超高性能の脳力を持つ。
「単位不問処置の方が早くないですか?」
などと述べていたけど、
「こんなことで信用を失う方が辛い」
との説得が功を奏し、覇王と宰相が並んでテスト。
「わかりきっていますけど」
との宣言通り、ラピスは学年一位をとった。
全問正解の百点満点。
さすがに超演算能力を持つ彼女にとって、先述の通り高等部の勉強はどうやら基礎ですらないらしい。
あえていうなら、「大前提」とのこと。
温故知新の故にあたるそうな。
学年二位は『アート=シルバーマン』と書かれていた。
聞かない名だ。
ラピスはあまり興味もない様子。
自分の成績がどうであろうと気にもしないし、僕の成績がどうであろうとそれも気にしないとのことで。
清々しい時間の無駄であることは否定できないけど。
六月に入って梅雨前線が活発化。
「雨は良い物です」
ラピスは中間テスト終わりで軽やかにそう述べた。
また日常に戻るのだけど、少しハプニングも起きたりして。
「あー」
教諭はむずがゆく言った。
「転校生を紹介する」
と。
現われたのは女子生徒。
異界の構築。
唖然。
息を呑む。
静謐の末に理性を取り戻すと、
「「「「「――――――――っ!」」」」」
教室が沸騰した。
僕とラピスは除く。
異国の乙女だった。
ラピスもアルビノなので顔の造型以外は撫子に準じないけど、此度の少女は完璧に外国人の容姿をしていた。
教諭がカタカナと英語で名を書く。
「転校生のアート=シルバーマンさんだ。よろしくしてやってくれ」
聞いたか聞かなかったか。
歓迎と賞賛の数々。
学院全体に広がるのも一日あれば足りるだろう……ちゅーかおそらく既に廊下を歩いた時点で学内でも捕捉されているはずだ。
「ども……アート=シルバーマン言います。シクヨロ」
ひらひらと手を振る転校生改めシルバーマンさん。
輝きのある白銀の長髪は一分の隙も存在せず、ラピスの赤と対照的な碧眼は鮮やかにして穏やかで……これは本当に引き込まれる。
「あー……シルバーマンさんの席は」
との教師の指示。
シルバーマンさんは穏やかに僕の隣にある席の生徒に声をかけた。
「すーません。席交換願えますかー?」
「は、はひ……」
そんな感じでラピスと対称な隣の席を悠々と確保してのける。
――そっちか~。
とは僕の独語。
ラピスはあまり興味もないらしい。
クラスメイトは僕の立場を鑑み不愉快そうだけど、これはどう考えても僕のせいじゃないはずだ……多分。
「もし」
シルバーマンさんが話しかけてきます。
「覇王陛下への拝謁失礼。僕アート=シルバーマン言います。宜しく」
「シルバーマンさん?」
「ミスアート、お呼びください」
「アートで」
「恐悦ござーます」
すこし日本語が不慣れらしい。
別に気にするほど致命的なコミュニケーション不全でもないので、これは後刻慣れてもらうまでだろう。
「何で司馬?」
「世界覇王だから」
そんなクラスメイト。
前後の文をイコールで結ばないで欲しい。
観念くらいはしてるけど、どうしても譲れないところはある。
「アート……って」
たしか学年二位の成績で張り出されていたような。
「急な転校でしたので」
にゃは、と笑われる。
どこか愛玩動物ならびに肉食動物を思わせるような、二律背反を想起させるしなやかな笑みでした。
「編入試験代わりに中間テストを受けて様子を見たとのこと」
「それで学年二位も凄いけど……。勉強出来るなら、普通此処に居ないで大学に行くものじゃない? アートは頭良いんでしょ?」
「畏れいりまーす」
ペコペコと頷く。
どこか絡繰りめいている。
ラピスに続き超常女子転校かつ司馬の隣人。
「あまり刺されたくないなぁ」
「大丈夫ですよ」
ラピスはそう言うけど、そんな問題でも無いようで……何と申しますか。
こっちの勘案を無視して事態が進行しているに二千点。
アート=シルバーマンね。
「どぞ。シクヨロ」
「へぇへ」
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