第15話 妹は噂の転校生02
転校初日からインパクトブレイクをかましたラピスは、「学院に舞い降りた最後の天使……君の瞳は百万アンペア」と即日に崇め奉られた。
――アルビノ。
――美少女。
――巨乳。
――安産型。
どこをとっても優秀の一言。
ついでに僕の株値が大暴落。
ウォール街も目じゃないぜ……虚しい。
そりゃまぁ、転校早々に兄妹でキスしたともなれば、不信も不満も不平も買うでしょうよ……それも言い値で。
ラピスは僕の義妹で、ルリの実姉という立場を、手に入れていた。
そもそも国民データに存在しない人間のため、出自不明だ。
そう考えると、よく警察から解放されたな。
ちなみに金銭で解決することを「誠意ある説得」とは普通呼ばない。
「生徒ラピス」
そんなこんなで学院生活。
何度見直しても、口座の預金は一兆円で端数切り捨て。
その内世界恐慌でも起こすんじゃ無かろうか……うちの妹さん。
その場合の責任の帰結が那辺にあるかは……まぁ考えるまでもないことだけど、とにかく警戒するに如くは無く、場合によっては法廷に立つ可能性も。
「当座はこの程度で申し訳ありません」
のラピスの言こそ恐い。
この場合、ラピスが「一兆円を儲けた」ということは、マーケットそのものから「一兆円徴収した」と同義なわけで、一般投資家の皆様方の財産を広く浅く認識も持たせずにカツアゲしたと相成ります。
あまり考えたくない懸案。
「むにゃ~」
その勘案事情は、真ん前の席で熟睡。
今の講義は数学。
三次方程式だ。
すやすやと臆面もなく船を漕ぐ……と。
「…………」
さすがの数学教諭も、こめかみをひきつかせていた。
無念。
「兄さぁん……」
艶声で、なんて発言しやがる。
背中に感じる風聞と、ルサンチマンのヘドロ熱波。
クラスメイトが備長炭なら、視線は赤外線。
春の陽気も朗らかな野花が、枯れ果てるかの如き黒縄地獄。
「生徒司馬」
「何でしょう?」
「兄の方ではありません」
デスヨネー。
教鞭でペシッと頭部を叩きます。
体罰……ととれるかどうか。
まぁ猫に肉球で殴られた程度でしょうけど。
「んにゃ?」
眼を覚ますラピスでした。
愛らしくも蠱惑的。
「ほぅ~」
とクラスメイトたちが、一様に感嘆の吐息をつきます。
それほど純粋無垢で清流を想起させる様な無邪気さでありました。
「この問題を解きなさい」
「接点tは――」
スラスラと淀みなく。
まったく講義を聴いていないのに、暗算だけで三次方程式を解くラピス。
「ぐっ」
と呻いた教諭の反応を見れば正解と分かる。
「んだでば」
とスヤスヤ。
そういえば、未来から来たとは言っていたけど……未来世界では数学や物理学は発達しているのだろうか?
むしろ発達しすぎたからこそのラピスというイレギュラーなのだろうけど、少し考えてしまうのもしょうがない僕。
……現代文。
……英語。
……物理。
南無三。
大凡全てで淀みなく答え、所謂「砂を噛ませる」の体現。
天衣無縫のアイドルと相成りました。
容姿抜群で勉強も出来るとくれば、そりゃ無敵ですわね。
おほほほほ。
「で、結局どんな関係だ」
ラインで久遠のコメント。
そうなるんだよなぁ。
現れ方が唐突すぎて、僕自身面食らっている側面が有る。
関係で言えば、『妹』になるんだけど、
「普通の妹は兄とキスしない」
ご尤も。
久遠が危惧することじゃないだろうけど、評された事実も確かに真実で、この場合はどちらにより非があるのか……って話だけど、ラピスがルリなら……ううむ。
僕は、パックジュースにストローを刺して、チューと飲む。
いまだ方程式さえ立てられていない現状だ。
資料不足。
次いで背景不足。
ホームズだって推理しようがない。
「一緒に暮らしてるの?」
とは四谷のコメ。
チラリと見やると、睨み付けられました。
――ま、妹ですから。
普通に既読スルー。
一応フォローすべきか悩んだけど、何を言っても坩堝だろうね。
で、あれば対処療法がまず順当か。
ラピスについて――あるいはその正体についてか――語ろうにも手札がないので無い袖が振れない状況。
はたして悪いのは誰の頭か?
「僕だったら良いなぁ」
「兄さんにだったら良いですよ?」
沼に浸る御様子。
さて、どう説明したものか。
届かぬ星より掲げたるは大きな手よ。
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