勇者レアードは魔王リーナに首輪を結われる。

花月夜れん

第1話

「な、なななななななな……!?」


 大きな鏡の前で叫ぶ、オレは勇者レアード。青みがかった銀髪、碧眼の男のはずがっ!

 目の前に映る姿は、金髪、赤眼、頭には双角、女?!

 と、いうかすごくすごく見覚えがある。いや、間違いなくこいつをオレは知っている。


 魔王リーナ


 オレが、この手でとどめをさした、世界の破壊を目論む魔王軍の統率者。


 ***


 しっかりと握った剣からポタリポタリと滴り落ちる赤黒い液体。


「ははっ、……呪ってや……る。絶対にお前を許さな……い。ゆるさ……」


 息も絶え絶えの魔王リーナは腹部に刺さった剣を握りしめオレに呪詛をはいた。

 赤い瞳が燃えた炎を映し、きらめき――。


 ***


 オレの記憶はそこで途絶えている。


 そのあとどうなったのか、まったく記憶がない。どうしてオレが魔王リーナになっているんだ。

 まさか、これが呪いなのか……?


 回りを見ると、漆黒の床や天井、装飾の施された壁や柱。ほんのりと浮かび上がる白い天蓋ベッド。リーナの寝室なのだろうか。

 いまはいったい何時なんだろうか。

 黒の薄いドレスの上から腹部を確認してみる。痛みなどはまったくない。回復魔法で治療されて復活したのだろうか。それとも……。


「リーナ様、お目覚めですか」


 扉のむこうから声がかけられて、びくりとする。この声には、覚えがある。


「あぁ……」


 何も返事をしないのは変だと思われる気がして、返事をしてしまった。


「……、偵察していた部下より報告があります。おやすみ中のところ申し訳ございませんが玉座の間にお願いします」

「わかった」

「……」


 謎の間を残して、扉の向こうの気配が消えた。と、いうかこの格好のまま行けばいいのか? 着替えたほうがいいのか?! オレが行っていいのか!!?

 とりあえず、このまま(寝間着? )じゃ明らかにおかしいだろうと思い辺りを見渡す。クローゼットらしきものはあるが、あけてもいいのだろうか……。

 意を決して、オレは目をとじながらクローゼットをあけてみる。そーっと目をひらくと、とりだしやすい位置にパッと羽織れるマントがあったのでとりあえずそれを身につけて、扉をあける。少し離れたところに、先ほどの声の主が待っていた。青紫色の髪の悪魔、魔王軍の将軍、アラン。

 こいつは、あの日、オレの仲間が倒したはずだ。何故、生きている。

 もしかしてここは、過去なのか?


 やばい、やばい、やばい。

 え、オレ、これ、どうしたらいいの。頭が混乱する。


 表情にでていないか心配になる。長い回廊を無言で歩き続ける。

 玉座の間ということは、オレがリーナを刺したあの部屋だ。

 もしかして、あの部屋にいけば戻ったりとかないか!とか、考えて扉をあけて入ってはみたが何も起こらない。

 無言のまま、玉座へと進み座ってみる。こうでいいのか?普段リーナがどんな風に座っているかなど知らないので適当に足を組んで座ってみた。


 アランは特に表情を変えず、少し後ろへと下がり控えている。


 オレが座ると同時に、アランの部下と思われる魔族が現れた。


「王陛下に報告致します。レアードとその仲間達がこの城を目指し進行中でございます。現在撹乱の魔法により城下にて負傷者がでています」


 オレがきてるぅぅぅ!しかも、城下、撹乱ということはあと数時間であの刻じゃないか?!あ、詰んだ?

 無言のまま、じっと報告を聞く。固まってしまっているオレを見かねたのかアランが口を開いた。


「総員、城を固めろ。リーナ様を煩わせるな。少数精鋭できているなら私もでる」


 あ……。アランが出て行ってしまうと、どうなるかわかっている。ここは一緒にいてもらう方がいいのだろうか。いや、だが別々に叩かないと面倒であることは間違いない。でも、オレが死んでも困る。オレも死んでも困る。いや、いま魔王だけど。


「リーナ様、不安そうなお顔は似合いません。すぐに私が滅してまいります」


 いや、困ってるんです。滅されても困るんです。などとは言えず、玉座の間に取り残されてしまった。


 いや、これどうしたらいいの!?

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