なぜは私はどうでもいい恋をするのだろうか。

するめ

ブルーライト


朝、目覚めた時、胸がとてつもなくざわざわする、そんな気分になった時は大抵夢であなたを見ていた。


「…好きだなあ」


声にもならない私の口から出た空気の振動は、私をさらに憂鬱にさせた。


昔から、どうでもいい恋ばかりしてきた。


確実に敵わない恋、というよりむしろ、この人と付き合ったところで私には何のメリットもない、幸せな時間を過ごせないというのはわかりきった人、そんな人ばかり好きになってしまう。


頭の中であの人の笑い声が響く。1日のうちに何度あの人のことを考えたら気が済むのだろうか、私は。


気が付けば準備は無意識のうちに済んでおり、私は昨日買ったまだ硬いスニーカーに足を入れ、二階に顎を向けた。行ってきます、と呟いた私の声は誰もいない、広い家にこだました。



太陽が照りつく。

健康的、いや平凡、な私の腕に太陽の光がジンジン吸い付いてく。


何とも言えないこの蒸し暑さが私の思考力をストップさせる。





「リナ、」


駅のホーム。掌のスマートフォンから、全神経を背後に送る。


「おはようございます」


呼ばれた方に首だけを向けて軽く会釈した。


毎日同じ様に挨拶しているのに、いつも変わらない新鮮さと、胸のときめき。

おはよう、とフッと微笑んだあなたの顔がとてつもなく好きで。



「今日担任と面談なんだよなあ、」


「言ってましたね、ファイトです」


「まじ無理だ、この間の模試最悪だったんだよね」



平井英《ひらいえい》。私の一個上の三年生。バリバリの受験生である。


英先輩の教室はめでたいことに私の教室の斜め前にあり、移動教室の時はチラッと覗くのが習慣である。

その時先輩はいつも一人、窓側の席でいかにも使いこなされた参考書を広げている。

そんな先輩の横顔はほんとに、ほんとに、泣いてしまいそうなぐらい美しい。


なのにこの時間は、私に気を使ってくれているのだろうか、

単語帳すら出そうとせず、私の他愛もない話に付き合ってくれている。



「先輩勉強したいだろうし、違う車両乗ってもらってもいいんですよ?」



「だから、俺がリナと話すのが唯一の楽しみなの、嫌ならリナが他の車両に行けばいいでしょ」



この人の神経がわからない、女慣れが見え見えである。

私が男に慣れていないことに先輩はつけ込んでいる事は明らかなのに。






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