何故、こんなところにっ!


 美味しかった。


 最近のビジネスホテルすごいな。


 あの値段でちょっとした朝食バイキングがついてるんだもんな。


 いいよなー、朝起きたら、あったかいご飯があるって。


 この間の茶粥も最高だった、と壱花はしみじみと思う。


 朝、倫太郎と食べるときもあるが。


 一緒にコンビニに行って、アパートに送ってもらって、買ってきたものを齧りながら、慌てて支度する、がいつものパターンだからだ。


 駅でお土産物のコーナーを眺め、百貨店に行き、


 よかった。

 最中もなかあったー、とか。


 あのマスカットのお菓子好きなんだけど、今、季節じゃないんだよなー、とか思いながら、壱花はまた幸せを感じていた。


 勤務時間にこんなことしてるなんて、天国っ!


 働いている木村さんたちに申し訳ないから、お土産、奮発しちゃおう、とせっせと選んでいると、こちらを見ているサラリーマンらしき男がいるのに気がついた。


 お店の人に領収書をもらっているようなので、仕事で使う手土産を買いに来たのだろう。


 こちらを見て、ぺこりと頭を下げてくる。


 下げ返して、そういえば、何処かで見たような、と思ったら、何度かあやかし駄菓子屋で見た生活に疲れた……と決めつけてはいけないが、ちょっと疲れたサラリーマンの方だった。


 なんであの駄菓子屋さんが岡山に? と思ってこちらを見ていたのだろう。


 出張なのかな?


 お疲れ様です、と思いながら、壱花はエスカレーターの方に行ってしまったサラリーマンさんに頭を下げた。

 



「びっくりしましたよー。

 こんなところでお客さんに会うなんて」


「そりゃ、向こうもビックリしたろ」

と仕事を終えて合流した倫太郎が電車で言ってくる。


「俺は人間の客には、あまり顔をさらさないようにしてるが、お前はまるきり、そういうことに無頓着だからな」


「私は一般社員ですからね。


 社長は顔出ししてて。

 取引先の人と顔を合わせたときに、

『はっ、駄菓子屋さんっ』

 ってなったらまずいですけど」

とまた横並びに座って話していると、冨樫が珍しく笑って言ってきた。


風花かざはなでも、副業かと思われてまずいですよね。

 でも、給料じゃ足らなくて、隠れてホステスやるとかいうのは聞いたことありますけど。


 駄菓子屋で働く、はあんまりないんじゃないですかね?


 でも、風花らしいですよね。


 ……ホステスは、ない」

とまた、なにを想像したのかおかしそうに笑い出す。


 ……珍しくご機嫌でなにを言ってくるのかと思ったら、ロクでもないですね、やはり、と思っていると、倫太郎も笑いながら言ってきた。

「壱花がホステスしてたら、絶対行かないぞ、その店。

 このホステス、100%気が利かないし」

と言って、はははは、と男二人で笑っている。


 ……二人にも差し入れのお菓子買ってきてたんですけどね。


 渡さないことにしましたよ、今。


 帰りの新幹線でひとり食べてやる……っ!

といじけながら、壱花は膝に抱えている土産物の詰まった袋をぎゅっと抱きしめた。





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