リヴァプールさん

富本アキユ(元Akiyu)

第1話 リヴァプールさんが入団しました

スマホゲーム「城と黒の戦争」

キャッチコピーは、城を攻めろ。黒くなれ。白と共に戦え。

中世ヨーロッパ風な世界とファンタジーな世界を足したような世界観の中に存在する

騎士団に属して戦っていくRPGゲームだ。剣だけではなく、魔法でも戦う。

リリースから5年で累計750万DLされている。

この数字を見ると、スマホゲームをする人にとっては、微妙と表現できる。

知ってる人は知っている程度で、そこまでの知名度を誇る訳ではない。

大ヒットゲームって程ではない。そこそこだ。


俺は、城と黒の戦争がリリースされた当初から始めている。

きっかけは些細な事だった。

仕事中、暇だったから新着ゲームを検索してDLしてみただけだ。

俺は工業高校を卒業して、高卒で電気工事士として働いている。

レベルの高い工業高校でもないので、頭が良い訳ではない。

趣味はゲームで、昔からテレビゲームばかりしていた。

それは就職した今でも変わっていない。

ちなみに独身で、何なら彼女も絶賛募集中だ。

高校生活は男一色。就職した職場は、ベテラン事務員のおばちゃんしかいない。

もう一度言う。彼女募集中です。寂しいです。


しんどい時期とやりがいを感じる毎日の中、このままで良いのだろうかと考えながら新卒で入社して7年目を迎えていた。現在25歳。

先行きはどうなるか分からない。

未来への不安は常にある。いつ何が起こるか分からない。

突然仕事中に怪我してしまったり病気するかもしれないし、それは自分ではなく身内かもしれない。

何十年と同じ会社で働き、定年退職で夢の年金生活に手が届きそうな段階まで歳を取っていく親父を見ると、凄すぎると感じている。

俺にそんな事できるんだろうかという不安もある。

この先、一生ここで働けるだろうか……。

ああ、ダメだ。考えたって仕方ない。今、やれることをやるんだ。

仕事は7年やると、そこそこ仕事の手の抜き方も分かってきた。

電気工事士というのは、現場で体を動かして作業して、適度に休憩しながらやれる仕事だ。つまり仕事が片付いていたのなら、片付けして現場でそのまま少し休憩という名の元に、少々サボっていてもバレない。それは、もちろんきちんと働いた後の話だ。例えば、夏場のエアコンの取り付け工事。重い室内機と室外機を繋いで炎天下の灼熱地獄の中、汗だくになりながら仕事をして、完成したら最後に運転テストをする。ここが一番緊張する。リモコンを使って温度を一番低くして、外に出てドレンホースから水が出ているか確認する。もしも水が出ていなかったらかなり絶望する。何度絶望した事か。原因は色々考えられるが、語ると長くなってしまうので割愛したい。

色々やった結果、なんとか排水処理ができていると一安心する。

まあこれは、電気工事士の仕事のうちの一つの例だ。

暑かったり寒かったり高い所登ったり狭い所入ったり、埃だらけ油だらけ、本当に大変な仕事だけど、慣れてくれば昔よりスキルアップした事だけは実感できる。

お客さんからもありがとうと直接言って貰えるし、感謝してもらえる。

だからやりがいのある仕事ではある。

会社内で座ってパソコンのキーボードをカタカタカタと四六時中ずっと叩いて、お客さんにありがとうなんて言われることもなく、色んな資料やデータを作る事務員の人は、本当に凄いなと思う。

俺には絶対真似できないと感じる。


その日は、確か5月のゴールデンウィーク前の事だった。

仕事は、早めに終わって割と暇だった。

サボッて……いいや、違う。

違うぞ、休憩していたんだ。

一人で現場に向かって配線の仕事を終わらせて、休憩がてらに自販機で缶コーヒーを買った。

外で座って珈琲を飲みながら、スマホをいじっていた。

何か新着のゲームはないだろうかと検索していた時に見つけたのが「城と黒の戦争」だった。

基本プレイ無料。課金あり。課金すると魔法石を購入できて、魔法石5個でシングルガチャ1回。50個で10連ガチャでSR以上一枚確定。


なかなかストーリーが面白そうだし、キャラクターの絵も綺麗だったし、どうせ無料プレイできるしと思って軽い気持ちでダウンロードした。

それでプレイを始めてみると、期待していた以上に案外面白かった。

最初はサクサクとステージをクリアして先に進んでいけるけど、ついに今の手持ちのキャラクターでは勝てなくなった。ガチャを回して強いキャラクターを引けたらいいなと思って回してみると、SSRという最高レアリティーのキャラクターを引くことができた。引きが良かったこともあって一気にのめり込んでいった。

メインストーリーを最新話までクリアして、次に何をするべきかと思ったら、戦争モードというモードがあった。これは12時から12時30分までの時間、21時から21時30分までの時間、1日で2回。特別な対人戦に参加できるというモードだった。

戦争モードをするには、どこかの騎士団に所属しなければならない。

騎士団に入りますか?という問いかけがあって、色々探してみた結果、ゴールドラッシュという騎士団に入る事にした。

ゴールドラッシュは、誰でも歓迎。リアル優先。でも頑張れる時は、皆で出来る限り頑張りましょうという、リアルの生活に支障が出ない程度にそこそこ頑張ろうというスタンスが気に入ったから入団する事に決めた。


それから3年が経った。スマホゲームはすぐ飽きて違うのをプレイしている俺だったが、意外にも続いている。メインストーリーとキャラクターの良さは変わらず、本当に良い作品だと思う。しかしガチャの渋さと運営の対応の悪さは、どうにかならないだろうか。だからユーザー離れしていくんだ。これじゃジリ貧だよ。

運営、マジで大丈夫?

ねぇ、最近、過疎化が止まらないよ……。


ゴールドラッシュの騎士団画面を開く。


【戦争お疲れさまでした。今日も勝てました。皆様のおかげです】


騎士団長のノンシュガーさんだった。このゴールドラッシュのリーダーだ。

詳しい年齢は聞いた事ないけど、落ち着いた雰囲気があるまとめ役。

多分年上の人なんじゃないかな。

3年間、一緒にいるけど、おそらく結構な金額を課金しているっぽいユーザーだ。

欲しいキャラクターは、ほぼ毎回取っているっぽい発言をしている。

引きが強いのか、課金の力なのか分からないけど、強くて頼りになる事だけは確かだ。その為、どんな役職でも万能にこなせる。かなり頼りになる団長だ。


【お疲れさまでした。100人くらいしか倒せませんでした。申し訳ない。次はもっと倒します】


副団長のセロリさんだ。ゴールドラッシュのアタッカーだ。

100人倒すって凄い数字なんだけど・・・。

攻撃の要になっている人なので、この人には辞めないで欲しい。

攻めて攻めて攻めまくる。とにかく相手を倒す事ならこの人に任せたらいい。

攻撃力を高めるスキルを持ったキャラクターや、単純に攻撃力高いキャラクターを好んで収集しているので、新キャラが追加される度に、セロリさんこのキャラ取るだろうなと容易に予想ができる。


【お疲れさまでした。城の周りが思ったよりも鉄壁で、なかなか付け入るスキがありませんでした。守り固かったですね。攻防のバランス取れてて隙が見つからず、時間が経ってしまった】


ゴールドラッシュのメンバーのにゃおーんさんだ。

この人は、戦場を上手に回避して立ち回りながら相手の城を破壊する役目だ。

セロリさん達の猛攻に目を奪われている敵達をかわしつつ、しっかりと相手の城に攻め込んで破壊する。

キャラクターのスキルを把握し、上手く利用して立ち回る。策士である。

かなり頭の良い人なんだという印象がある。


【お疲れさまでした。相手も攻撃力高めの構成で来たので焦りました。守るだけで手一杯でした。次はデバフ入れてみようと思います】


相手の攻撃をブロックする役目の俺は、防御重視で構成している。

ちなみにデバフとは、相手を弱体化させるスキルの事である。


主にアタッカー、ブロッカー、城破壊役、オールラウンダー。

この4タイプに分かれた合計20人で構成されたのが、ゴールドラッシュだ。


今日もなんとか戦争で勝つ事ができた。

反省点はそれぞれに色々あるけど、結局楽しい。

かくいう俺も課金なんてする気はなかったけど、なんだかんだで3年間で総額5000円課金していた。ちょっとハマッていた。もう課金はしないぞ……と言いつつ、どうしても欲しいキャラがいて課金してしまうのが恐ろしいところだ。

給料安いのに控えないと……。


お知らせ。


【リヴァプールさんが入団しました】


ん……?

それは、リリースから3年が経過した時に流れてきた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る