第58話 クレアの独り言

 ソフィアさんとクレアの父親に連れられ、とある飲食店に来ていた。


「ちゃんと自己紹介をしていなかったね。私の名前はバルアだ。先ほども行ったけどソフィアとクレアの父だ」


「アレスです。ギルド長――ソフィアさんのギルドで冒険者として活動しています」


 順にエリンとアウラも自己紹介を済ます。


「娘のギルドから来た冒険者だし、しかもクレアを訪ねてこの村に来たって話だからね、父親としては挨拶くらいはしておこうと思ってさ」


 それに、とバルアさんが続ける。


「勇者と呼ばれる存在に興味もあったからね」


 バルアさんの言葉で自分はどういう存在なのかを改めて意識させられる。

 ずっとハーベルス王国にいたせいで、周りの人たちが顔見知りの人ばかりになったせいで、少しばかり認識が薄くなっていた。

 だが、いざ国の外に出てみると勇者という立場の重さを理解させられる。

 村の代表がわざわざ会いに来るくらいなのだ。


「まだまだ力不足ですけど、勇者の名に恥じないように頑張ろうと思います」


「あぁ、君なら大丈夫さ。少し話しただけだけど、君がどう言った人物かはなんとなく分かったよ。伊達に長く生きていないからね。心配はしていないよ」


「あ、ありがとうございます」


「君はまだまだ若い。焦らず頑張っていけば良いさ」


「はい」


 バルアさんが優しく微笑みかけてくれる。


「クレアの話をしようか」


「お願いします」


「彼女が武器を作らなくなったのは割と最近の出来事なんだ」


 そうだったのか……だからソフィアさんも知らなかったのか。

 ドワーフと俺たちとでは時間の感覚が違うかもしれないけど……


「最初は本当に楽しそうに武器を作る子だったんだ。彼女の作った武器を見て驚いたよ。思わず鳥肌が立つほどの出来だった」


 でも、と繋ぐ。


「クレアの噂を聞きつけた人が武器の製作を依頼してきたんだ。その時から少しずつ変わっていった。だんだん表情が暗くなっていった。武器を作るのが辛くなってしまったようなんだ」


「もしかして、思うように武器が作れなかったりしたのですか?」


 いいや、と首を振る。


「武器を依頼してきた人も、クレアの作った武器を見て大喜びしていたよ。素晴らしい剣だってね」


 バルアさんがふぅっと息を吐く。


「次第にクレアへの依頼は増えていったんだ。私もクレアの腕が認められたようで嬉しかった。それに仕事も上手くいっているようだってしね」


「でも、武器を作るのをやめてしまった、と?」


「そうなんだ。出来れば私は以前のように楽しく武器を作って貰いたいんだ……」


 それから少し会話をした後解散となった。何かあれば遠慮せずに来てくれ、と言ってもらった。


 話していて日も落ちてきた。宿に帰って夕食を食べる事にした。


「結局どうして武器を作らなくなったのか分からなかったね」


「そうね、武器の作成依頼から少しずつ変わったみたいね」


「無理にはお願いできないし、困ったな」


「また明日、武器を鍛え直してくれる人を探すしかないわね」


「遺跡にあった剣だから絶対に使ってみたいんだよな」


「加護もついているみたいだし特別な剣みたいだしね」


 このまま諦めるなんて出来ない。もう少し粘ってみようと思う。


 ◆◆◆◆


 翌日、腕利きの鍛治士を見つけるために手分けして探していた。クレアが紹介してくれた人たちはこの村の中でもトップクラスの腕を持っていたようで、なかなか見つけ出すことができない。


 村の中をふらふらと歩き回っていると、ふと視界に映り込む人物がいた。


「クレア?」


 思わず出た言葉に反応してこちらを向く。


「や、やぁ……昨日ぶり」


 バツが悪そうに視線を逸らした。


「あぁ」


 クレアは店の外に置かれている武器を見ていた。やはり嫌いになったわけではないということだろう。


「あの……さ、少しだけ一緒に歩かない?」


「いいぞ」


 特に断る理由もないのでクレアと一緒に歩き出す。


「さっきの武器はもう見なくていいのか?」


「うん……大丈夫」


 しばらく黙って歩く。


「そういえば、父さんと話したんでしょ?」


「あぁ、優しそうな人だったな」


「……何か聞いた?」


「少しだけ……な」


「そっか……」


 また沈黙が流れる。


「少しだけ……ボクの独り言に付き合ってくれないかな?」


「いいぞ、壁だと思って話してくれ」


「ははっ、なにそれ……」


 少しだけ表情が明るくなった。


「ボクはね……本当は、武器を作ることが好きなんだ……」


 そう言って少しずつ話し始めた。

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