第57話 ソフィアとクレアの父
クレアに教えてもらった鍛治士の元へと向かう。全部で四人ほど教えてもらった。
一番近いところから順に行くことにした。
「あの赤い屋根のところかな?」
「えーと……そうみたいだな」
エリンの指差す店までいき、扉を開く。
「いらっしゃいませ」
店の中には恰幅の良い女性が居て、出迎えてくれた。
「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「クレアの紹介で、武器を鍛え直してもらいたくてきました」
「クレアちゃんの? 少し待っていてくださいね」
そう言い残すと奥の工房の方へと消えていき、すぐに戻ってきた。
「すみません。今手が離せないみたいなので、お待ちいただいてもいいですか?」
「わかりました」
ドワーフの女性は、お茶を用意してくれた後、店番に戻っていった。
待っている間、店にある物を見ながら時間を潰す。
剣や盾、斧、槍と言った様々な種類のものがある。
こう言ったお店で武器を見るのは結構楽しい。
エリンとアウラも俺と同様に店内を見て回っている。
「アレス、ちょっと来て!」
エリンに呼ばれそちらに向かう。
「この剣、すごく綺麗」
エリンの視線の先には一振りの剣が置いてある。
値札がないため売り物ではないようだ。
エリンの言う通り、他の剣よりも優れているもののように感じる。素人目なので、ただそう感じるだけかもしれないが……
その剣を見ていると後ろから声をかけられる。
「待たせて悪いな」
タオルで汗を拭いているが、どんどん流れ出ている。さっきまで作業していたので当然だろう。
「いえ、いろんな武器が見れて楽しかったので大丈夫です」
「ここにあるものは良い物ばかりだからな」
男くさく笑いながら自慢げに言う。
「剣の打ち直しだって?」
「はい。これなんですけど……」
持ってきた剣を差し出す。クレアと同様にまじまじと剣を観察している。
「こいつはどこで手に入れたんだ?」
「遺跡の奥にあった物なんです」
腕組みをして唸る。
「なるほどな……」
「お願いできますか?」
「うーん……はっきり言って、俺の技量では難しいだろう」
「そう、ですか」
「悪いな。せっかくクレアの紹介で来てもらったのに」
「いえ」
「俺はこの道百年だが、こいつはちょっと厄介な代物だな」
「見ただけで分かるものなのなのですか?」
「なんとなくだな。百年もやっていれば、なんとなく分かるんだよ」
照れ臭そうに笑う。
「こいつは他のやつでも難しいかもしれない……」
それは困った。最高の鍛治士がいるとしたらドワーフの中だ。もしドワーフにも無理ならこの剣は誰も打ち直すことが出来ないだろう。
「クレアなら出来ると思うんだがな……」
「そうなのですか?」
「あぁ、あいつは鍛治士歴は三十年と短いが、間違いなく天才だ。俺はこの村一番の鍛治士はクレアだと思っているからな」
村の人からも認められる実力なのか……
というか、鍛治士歴三十年って……やっぱり長寿の種族は違うな。
「こいつを見てくれ」
ドワーフの男は、さっきまで俺たちが見ていた剣を見せる。
「これはクレアが作った剣だ。あいつは、こんな凄い剣が作れるんだ」
クレアが作ったものだったのか。
「はぁ……なんで剣を作らなくなっちまったんだかなぁ」
才能あるものが埋もれてしまうことを悲しんでいるようだ。
「少し前までは楽しそうに武器を作っていたんだがな……この村にもあいつが作った剣が沢山ある。どれも素晴らしい作品だ」
「この剣を打ち直すならクレアにお願いしたほうがいいですか?」
「それが確実だろうな」
「わかりました」
「今回は力になれなかったが、何か困ったことがあったら言ってくれ」
「はい、ありがとうございました」
その後もクレアに紹介してもらった人たちのもとに向かったが、どこも同じようなことを言われてしまった。
おまけにどの店に行ってもクレアの武器が置いてあった。昔は結構な量の武器を作っていたようだ。
結局剣を打ち直してもらえそうな人は見つからなかった。
「その剣、やっぱり特別みたいね」
「そうみたいだな」
「ドワーフの人たちがみんな揃って言うんだから相当だよね」
やはり一番方法はクレアにお願いする事だが、あの様子だとお願いしても駄目だろう。事情もわからないことにはどうすることもできない。
とりあえず今日は宿に戻ることにした。ミスリルやアダマンタイトの採掘場がまだ使えないのではどのみち剣を打ち直してもらうことはできない。
「君たち、少し良いかな?」
俺たち三人は声に反応し後ろを振り返る。
「急に呼び止めてすまない。君たちがルーデルス王国から来た冒険者かい?」
「はい、そうですけど……」
「申し遅れた。私はこの村の村長をしている。ソフィアとクレアの父だ」
男は優しげな笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます