第50話 遺跡の番人
遺跡の中を慎重に進んでいく。
太陽の光が通らず、空気が冷たく少し肌寒い。空気が湿っているような気がする。
壁には木の根やツタが張り付いている。この遺跡が出来てから何年も経っていることがわかる。
あちらこちらに苔が生えている。地面にもあるため滑らないようにしなくては。
「不思議な場所だね」
「そうだな」
「この遺跡はかなり昔に作られたみたいね」
別れ道などなくまっすぐ一本の通路が奥まで続いている。
歩き進めて行くが一向に奥にたどり着かない。
遺跡の奥は地下に続いているようで、どんどん気温が下がってきているような気がする。
「うひゃ!?」
「ど、どうした?」
エリンが変な悲鳴を上げる。
「首筋に水滴が……」
上を見ると水滴が所々落ちているのがわかる。
「びっくりさせて、ごめん」
「いや、気にするな」
少し驚いたが、特に問題はない。変な悲鳴を上げてしまったからかエリンの顔がほんのり赤い。
それからも周囲を警戒しながら進んでいく。どれくらい進んだかはわからない。十分、二十分――もしかしたらそれ以上かもしれない……
俺たちは開けた場所に出た。大きな円形の部屋だ。
周囲をキョロキョロと見回すが、ただ広いだけでこれまで通ってきた通路とさほど差はない。
エリンやアウラもしか興味深そうに周囲を見渡している。
「ねぇ、あそこ」
エリンの指差すほうに視線を向ける。この大きな部屋の一番奥に何かがある。
「あれは……箱、か?」
「ここからだとよく見えないけど、多分そうね」
石で出来た長方形の箱が置かれている。ご丁寧…に台に乗せられているため明らかに大事なもののようだ。
「どうするの?」
「どうするって…ここまで来たんだから確かめるしかないだろ」
そう言ってゆっくりと歩みを進める。
部屋の中心部分まで来たときだった。部屋中が揺れ始める。
「な、なに!?」
「周囲を警戒しろ」
何かが近づいてくるような気配がある。
「上っ!」
アウラの声で上を見上げる。巨大な黒い塊が降ってくる。
俺たちは慌てて回避行動をとる。俺たちのいた場所にその黒い塊が落ち、強い振動が部屋全体を襲い、地面が凹む。
剣を構え、戦闘態勢を取る。…
目を凝らし、そのはず巨大な物体を睨みつける。
ゆっくりと物体が動き出す。
「ゴ、ゴーレム!?」
「この部屋の番人ってところかしら…」
その物体は二足歩行のゴーレムで体長は三メートルをゆうに超えている。赤く機械的な目がこちらを見つめている。
体には苔が生えていることから、長い間この遺跡の中にあったのだろう。
「あの箱を守っているのかしらね……」
「その可能性は高いだろうな」
「それってあの箱の中にはそれだけの物が入っているってこと?」
「それを調べるためにも、まずはこいつを倒さないとな」
「そうね」
「いくぞ、エリン!」
「うん!」
俺とエリンはゴーレムに向かって駆け出す。
加護に干渉し、俺とエリンの加護の効力を引き上げる。
ゴーレムは腕を振り上げると、俺たちを潰そうと殴りかかってくる。
アウラは少し離れたところで魔法を行使する。風の刃を作り、それをゴーレム目掛けて放つ。
まるで金属がぶつかり合ったような音が部屋中に響き渡る。
アウラの魔法が直撃したのにも関わらず、ゴーレムの動きは鈍っていない。攻撃を躱し、左右から剣で斬りつける。
硬質な体に剣が弾かれる。硬い物質を切ったような感触が剣を通して伝わってくる。
ゴーレムからの攻撃を躱すと同時に一旦距離を取る。
「アウラの攻撃が効いてないの?」
「魔法が当たった場のに傷ができていた。あいつが硬すぎるんだ。一体何で出来ているんだ?」
少し動いただけなのに息が上がっている。それはエリンも同様だ。
「この部屋、空気が薄いみたいだわ。だから私の魔法の威力もいつもより低かったわ」
確かに言われてみれば空気が薄いかもしれない。少しだけ呼吸がしづらい。
無機質な赤い目がこちらを再び捉える
「少しだけ時間を稼いでもらえるかしら? そうすればさっきよりも強力な魔法が使えるわ」
「わかった」
エリンと頷き合うと、もう一度ゴーレムへと攻撃を仕掛ける。
アウラに攻撃が行かないように上手く注意を引きつける。
俺とエリンの片方に攻撃が集まらないように、交互に攻撃を仕掛けて意識を一つに絞らせないようにする。
ゴーレムの攻撃を捌いていく。アウラの方も巨大な風の刃が作り出されていく。あれならゴーレムを真っ二つにすることも可能かもしれない。
だが、その時だった。視界に光る物が映り込む。意識をそちらに持っていく。
壁際に四足歩行の小型のゴーレムがいた。背中には剥き出しの刃が付いている。
巨大なゴーレムと一緒な落ちてきていたのか!
その狙いの先にはアウラがいる。
アウラはこの小型ゴーレムの存在に気づいていない。
まずい!?
「エリン! 少しの間だけ任せた」
そう言い捨てると、アウラ目掛けて走り出す。
金属が弾かれるような音がする。小型ゴーレムが剥き出の刃をアウラ目掛けて放ったのだ。
俺は必死に手を伸ばした。アウラを射線から外すために押し倒す。
「ガァっ」
アウラに当たることはなかったが、そのかわり俺の肩を刃がえぐる。鮮血が飛び散る。
刃はそのまま壁に突き刺さった。
「アレス!?」
アウラが心配そうな声を上げ、血が出る肩を抑える。
さっきまで作り出されていた風の刃は消え去っている。
「大丈夫!?」
「あぁ……アウラは?」
「私は平気よ。貴方が守ってくれたもの」
アウラが強く傷口を抑えてくれているが、かなり深く抉られてしまったようで血が止まらない。もしかしたら骨が見えているかもしれない。
「ち、血が止まらないわ」
「これくらい大丈夫だ」
アウラが珍しく動揺しているような声を上げる。
激痛で腕が使い物にならなくなったが、死ぬほどではない。
アウラらしからぬ姿に驚く。
「アレス、アウラ!?」
エリンの声が響き渡る。
先ほどの小型ゴーレムが再び、こちらに刃を放った。
「これ以上、怪我させないわ!」
感情の籠もった声だった。
周囲が風に包まれる。飛んできた刃が、こちらに到達する前に一瞬で粉々になる。
「すぐに、終わらせるわ」
部屋の空気が変わった。まるでこの部屋全ての空気がアウラの支配下に置かれたような、そんな感覚襲われた。
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