第40話 リオンからの提案

 明日の指名依頼の為にみんなで話し合いをした後、片付けをしている最中にリオン君から話があると言われた。

 どうやら他の人には聞かれたくない話のようでリオン君の部屋に行くことになった。


 私はアレスに事情を話して先に宿に帰ってもらうことにした。

 話があると言ってもそんなに時間がかからないと思うから、お風呂でも入って待っていて欲しいと伝えた。

 アレスが帰る途中で夕食を買っておいてくれるみたいなので、なるべく早く帰ろうと思いリオン君の元へと向かった。


「たしか、こっちの方だったよね……」


 依頼の帰りにたまたま通った時に教えてもらった記憶を頼りに歩く。

 たどり着いたはいいが、合っている自信がなく躊躇いがちに扉をノックする。


「ごめん、今開けるよ」


 中からリオン君の声が聞こえて、少しだけホッとする。

 扉が開き出てきたリオン君の姿は私服ではなく、冒険者としての装いだ。


「さぁ、入ってよ」


「お邪魔します」


「お茶を出すから座っていてよ」


「アレスを待たしているから……」


「そっか……じゃあ、早速用件を言うよ」


 リオン君の目がこちらをじっと見つめる。少し怖いくらいだ。


「エリン、僕たちと一緒に来ないか?」


「えっと……意味がよくわからないんだけど……」


「ごめん、わかりづらかったよね。アレスを裏切って、僕たちで新しいパーティを作ろうってことだよ」


「………………えっ?」


 意味がわからない。なんでそんなことをいきなり言い出すの……


「裏切るってのは聞こえが悪いね。今の状態を正しい方に変えるという感じかな」


「正しい方……?」


「エリンも気付いているよね。このパーティにアレスはいらない。最近は大した活躍もないし、僕たちの方が強いよ」


「ち、違っ――」


 私はとっさに口をつぐむ。アレスの力を知っているのは私だけだ。アレスが話さない以上私が勝手に話すわけにはいかない


「何が違うんだい?」


「……」


 何も言えず、俯くことしか出来ない。


「ほら、僕の言うおりだから何も言い返せない。いくら幼馴染みだからといっても庇ったって意味はないよ」


 なんて言ったらいいのかわからない。


「役立たずのはアレスが勇者だなんておかしいよね。だから僕が勇者になるよ。彼と違って僕には勇者として相応しい実力があるからね」


 リオン君が私の方へ一歩近づく。


「君はアレスと違って僕のパーティに相応しい力を持っているよ。それに、初めて一緒に戦った時上手く連携を取れたよね。僕とエリンの相性はいいんだ。だから僕は君についてきて欲しい」


 たしかに、初めて一緒に戦ったときは、初めてと思えないほど上手く連携を取れていたと思う。でも、リオン君よりもアレスと一緒に戦った方が上手く戦える。私にとって一番上手く連携が取れる相手はリオン君ではない。


「君とアレスは仲がいいみたいだったからさ、モルナにお願いして二人の関係を悪くしようと思ったけど、そっちはあまり上手く行っていないみたいだね」


 それって……


「そうだよ。僕たち、少なくとも僕は最初からアレスを仲間だって思ってなんかいない。僕が勇者になるつもりだったからね」


 頭が痛く、胸が苦しい。


「そろそろ頃合いかなって……アレスよりも僕たちの方が実力は上、それに今回の依頼を達成すればランクも上がる。そして何よりも、討伐対象が強力な魔物だと言うことが都合がいい」


「そ、それって、どういう……」


「強い魔物と戦えば犠牲は付き物だからね」


 頭の中が真っ白になる。

 リオン君はいつものように優しそうな笑みを浮かべる。

 なんでそんな顔が出来るの?


「すべての状況が僕にとって都合がいいんだよ。僕はなるべくして勇者になるんだよ」


「で、でも、勇者はアレスで――」


「あいつが勇者なわけないだろっ! 僕よりも実力が下のくせに勇者だとっ、そんなの僕は認めない! 相応しいのは僕だっ! 僕が勇者になるっ。そうすればあいつらだってきっと!――」


 リオン君らしからぬ大声で怒鳴る。

 いつもからは想像できないその姿に思わず目を見開いた。


「ごめん、取り乱した。……エリンならいつでも歓迎するよ。いい返事を待ってるね」


 いろいろなことで頭がぐちゃぐちゃだ。胸が苦しい。

 少なくとも私はリオン君達のことをパーティの仲間だと思っていた。それなのに……


 アレスを裏切るなんて私に出来るわけない。

 私はアレスが勇者だから一緒にいるのではない。アレスがアレスだから一緒にいたいと思うのだ。アレスに子供の頃命を助けてもらったから私の心は決まっている。

 好きな人を裏切るなんて……裏切るくらいなら死んだ方がマシだと本気で思える。


 足取りが重く、いつまで経ってもアレスの元にたどり着かない。


 雨が降り始める。

 雨が頬をつたう。服が濡れるがそんなことを気にしている余裕はない。


 やっとの思いで宿にたどり着き扉を開く。するとアレスが私の元へと飛んでくる。


「おかえり――ど、どうしたんだ?」


 アレスが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

 きっと今、ひどい顔をしていると思う。


「お、おい」


「…………ごめん。少しだけ一人にさせて」


 私は今の顔をアレスに見られたくなくて、逃げるように風呂場へと駆け込む。もう少しだけ一人になる時間が欲しい。


 熱いシャワーを浴びる。嫌な気持ちが流されていくような気がする。

 少しだけさっぱりすることが出来た。


 私は心配そうにベッドに座るアレスの隣に腰掛ける。

 アレスは私が話し出すのをじっと待っていてくれている。


 意を決してさっきの出来事を話す。自分で話していてもまだ実感がない。

 話している最中アレスの顔を見てもその表情に動揺はない。


 強いなぁ……私は動揺してどうしたらいいか分からなくなっているのに……


 私の話を黙って聞いてくれていたアレスは、話終わると抱きしめてくれた。


「ごめん」


 なんでアレスが謝るの?


 話したこととアレスに抱きしめて貰ったことで気持ちが少しだけだ楽になった。

 アレスが買ってきてくれた食事を食べて落ち着いていて改めて話しあった。

 これからどうしていくかについて――

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