第41話 リオンの真実
貰った指名依頼に向かうために準備をしていた。一晩経ったがエリンの表情には暗さが少し残っている。
「今日は休んでも良いんだぞ?」
「ううん、私も行く。アレスを一人にしたく無いから」
「そうか……」
昨日エリンが酷い顔をして帰ってきた後、話を聞いて落ち着いてから夕食を食べた。
食事を取りお腹が満たされた事で、エリンが少しだけ余裕を取り戻した頃合いを狙って話をした。
自分が転生していたためリオン達の裏切る可能性があると思っていたなど言えない。
だって転生していたなんて話、信じられるわけがない。
それに、今の自分ではない記憶を持っている事は気持ちが悪いと思われてしまうかもしれないという恐怖があるからだ。
アレスとしての両親がいるが、俺には転生前の両親のことも記憶にある。本来ならば有り得ない事だ。
その本来あり得ない状況を俺自身が心のどこかで気持ちが悪いと思っているのかもしれない。
他の人とは違う変わったものを受け入れにくいという事なのだろうか……
俺はエリン都合がいいように話した。リオン達に不審な動きがあり、もしかしたら裏切る可能性があるかもしれないと考えていた事を話した。 エリンに話さなかったのは、俺の思い過ごしであって欲しいという思いと、エリンに余計な負担をかけたく無いと思っていたからだ。
だが、結果としてエリンに嫌な思いをさせてしまった。
もし俺がリオン達は裏切る可能性があると伝えていたら何か変わっていたのだろうか……
伝えたら伝えたでエリンに負担をかけてしまうことには変わりない。
俺はひとまずエリンに謝った。そのあとリオンにはどう対応していくかを話し合った。
「昨日も話し合った通り、リオン達が何かして来るまでは様子を見ようと思う」
「うん、そうだね。今のところ何も証拠がない状態だしね」
エリンは俺に裏切りの話を持ちかけられた事を話していないという事にしておく。
「何もされていないのにこちらが手を出したら、リオン達のにとって都合が良い状況が出来上がってしまうからな」
「でも、やっぱり不安だよ……」
「大丈夫、エリンのことは俺が守るから」
「違うの! アレスが怪我をする事が嫌なの!」
俺よりも動揺しているはずのエリンからそんんな事を言われてしまった。いや、言わせてしまったのかもしれない。俺はエリンに安心してもらうための材料として、ある事を話した。
「それ、ほんとなの?」
「あぁ、少し前からなんだ」
「そうなんだ……アレスの事だから嘘ではないと思うけど……」
完全に不安を取り除くことはできなかったにしろ、少しは安心させる事ができたと思う。
「よし、準備も出来たことだし、リオン達と合流しよう」
「うん」
俺たちはいつも集合する場所へと向かった。
◆◆◆◆
集合場所に向かうと、既にリオン達の姿があった。
「おはよう」
リオンがいつもと変わらない笑みを浮かべながら挨拶をしてくる。
「おはよう」
「みんな揃ったみたいだし早速向かおうよ」
そこでふと、リオンの持っている剣に視線が移る。いつも使っているものとは違う剣が腰に下げられている。
いつもよりも豪華で煌びやかな剣だ。一目で他の剣とは違うという事がわかる。
「その剣……」
「あぁ、この剣は特別な剣なんだよ。このルーデルス王国の中でも一位二位を争うほどの剣だと僕は思っているよ」
そう言って剣に触れる。
「今日はとても大きな依頼だからね、わざわざ持ってきたんだよ」
「なんでそんなすごい剣を持っているんだ?」
「ちょっとね……」
それ以上は何も言わなかった。
「早く行きましょう。この国に被害が出ては大変ですので」
モルナの言葉で俺たちは今回の目的地である洞窟へと向かった。
ギルドから馬車が用意されていたため、それに乗って向かう。しばらく乗っていると馬車が止まり、御者から着いたと伝えられる。
俺たちは馬車から降りて、そのまま洞窟の中へと入っていった。
奥へ進んでいくが、ほとんど魔物の気配はない。おそらく殆どがキングサーペントによって食い尽くされてしまったのだろう。
そこで視界の端で何かが動いた。そちらの方に視線を向けると、全身岩で出来た魔物がいる。
蛇のようにな見た目だが、大きさはかなり大きい。全身が岩で出来ているため、捕食対象として見なされなかったため、生きているのだろう。
いつものようにキーラが前に出て攻撃を受け止める。この岩の魔物は動きが短調で倒すのに苦戦しない。キーラが動きを止めている間にリオンとエリンが両側から攻撃を仕掛ける。
その時、岩の魔物の尻尾部分が動き、エリンを襲う。その攻撃に一瞬反応が遅れ、剣でガードをするが後方へと飛ばされる。
いつもなら簡単に躱す事のできる攻撃だったはずだ。やはり本調子ではないようで、動きが硬い。
一方リオンは一撃で岩の魔物を仕留めていた。リオンが言っていたように今日持っている剣は特別な物のようだ。全身岩で出来た魔物が真っ二つに斬られている。
硬質な岩をこうも簡単に切る事が出来るとは……その切れ味は凄まじい物なのかも知れない。
飛ばされたエリンの方へ駆け寄る。
「大丈夫か?」
「うん、足引っ張っちゃってごめん」
「気にするな」
俺とエリンが話しているとリオンが近づいてくる。
そして手に持つ剣をエリン目掛けて振り下ろした。
俺は咄嗟に剣を抜きそれを受け止める。
「さすが腐っても勇者って事かな? 不意打ちは効かないか。それとも最初から警戒していたから反応出来たのかな?」
そう言って俺たちから距離を取る。
「驚かないんだね」
「あぁ」
ちらりとエリンの方に視線を向ける。
「エリンは僕たちの元に来てくれないのか、残念だな」
「だからエリンを殺そうとしたのか」
「仲間にならないってことは僕たちの敵って事だからね。エリンは君と違ってちゃんと実力者だから、本調子ではない今を狙った方が確実だからね」
エリンを庇うように前に立ち剣を向ける。
「エリンに聞いていると思うけど、僕が勇者になるのに君は邪魔なんだよ。だから死んでもらうよ」
「なんでそんなに勇者になりたいんだ? 俺を殺したところでお前は勇者にはなれない」
「そんなことはないっ! 君みたいな無能でも勇者になれたんだっ、僕が勇者になれないわけがない!」
リオンが大声を出す。その声が洞窟の中で響き渡る。
「僕は勇者になるんだよ! そうすれば僕を馬鹿にしていたあいつらを見返す事が出来るっ。それだけじゃない! 僕が勇者になればあいつらの方から僕に力を貸してくれと頭を下げて来るに決まっている!」
これまでのリオンからは想像できない様子で声を荒げる。
「あいつらって誰のことだ?」
「血が繋がっているから、一応家族という事になるかな」
「家族?」
「ああ……そういえば君たちは知らなかったのか……」
その瞬間リオンにの表情に影がさしたように感じた。まるで自虐するような口調で言う。
「僕の名前は、リオン ルーデルス」
「え?……」
耳を疑った。ルーデルスって……
「そう、僕の家族というのは王族の事だよ。まぁ、僕はルーデルスを名乗ることは許されていないんだけどね」
そう言って笑う姿は、とても悲しそうに見えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
余談ですが、国王の名前に『リオン』が隠れています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます