第32話 勇者のパーティ

 モルナの攻撃が直撃したが、ジャイアントオーガに思ったよりもダメージが入っていない。

 いや、違う。防がれたのだ。ジャイアントオーガの左腕は完全に炭になっている。


 あの一瞬で防御したのか!?

 あの巨体からは想像できない反射神経だ。


 すぐさま攻撃を仕掛ける。俺と同時にエリンとリオンも距離を詰めている。


 ジャイアントオーガの注意が向いたのは俺だ。

 炭になっていない右腕が振り下ろされる。

 その攻撃を躱し、腕を斬りつける。

 体勢が悪く思うように力が入らず、大したダメージになっていない。


 エリンとリオンがその無防備な背中に斬りかかる。


「ガアァァッ」


 ジャイアントオーガが腕を大きく振り回す。

 エリンとリオンが上手くそれを躱し、距離を取る。


「手数はこっちが上だ! 攻撃を続けろっ」


 俺達三人は連続で攻撃を仕掛ける。

 モルナの攻撃によるダメージが思いの外あるのか、動きが鈍い。

 俺たちは攻撃が一人に集中しないように動きながら攻撃を仕掛けていく。ジャイアントオーガの体にどんどん傷が増えていく。

 エリンの一撃でついに膝をつき、動かせる右腕で体を支えている。


 チャンスだっ!


 エリンやリオンの加護へ干渉を止め、自分の加護だけに干渉し効力を引き上げる。一気に距離を詰め、すべての生き物の急所である首目掛けて剣を振り下ろす。


 首に剣が届く瞬間、強い衝撃に襲われる。


「アレスっ!」


 エリンが悲鳴のような叫び声を上げる。


「がはっ」


 肺から空気がなくなる。吹き飛ばされ地面を転がる。

 息ができない。ジャイアントオーガの方を見れば、炭になった左腕で殴られたことが分かった。

 くそっ 動かせたのかっ


 体から空気がなくなったことで一瞬思考が鈍る。

 その隙に一気に距離を詰めてきた。大きな腕が振り下ろされた。

 体が動かないっ


「ふんっ」


 衝撃が来ると思っていたが、一向に衝撃は来ず、その代わり鈍い音が響き渡る。


「キーラ!」


 さっきまでモルナを守っていたキーラが、その巨大な盾でジャイアントオーガの攻撃を受け止めていた。


 ジャイアントオーガの動きが止まる。だが、一瞬だ。

 すぐに二撃目が振り下ろされる。

 咄嗟にキーラの加護に干渉して防御力を上げる。


「グッ」


 振り下ろされた二撃目も耐える。


 こちらに意識が集中している隙に、エリンとリオンが攻撃を仕掛ける。

 キーラの分を止め、二人の加護の効力を引き上げる。

 リオンの攻撃は太い腕を切り飛ばし、エリンは足に大きな傷を負わせた。


「ガアァァァァァァァァァァァァァッ」


 痛みによる咆哮が響き渡る。

 モルナが魔法の準備を終えているのが視界に入る。

 キーラが時間を稼いでくれたおかげで体が動かせるまでには回復した。

 叫ぶように声を上げる。


「みんな! ジャイアントオーガから離れろっ!」


 必死に距離を取る。タイミングを見計らい魔法が放たれる。

 最初のように防御することが出来ず直撃だ。

 ジャイアントオーガが倒れるように膝をつく。

 まだ死んでいない。なんて生命力だ。


 止めを刺すために距離を詰める。今度は油断しない。後ろから近づき、その巨体に飛び乗る。そしてその頭に向けて剣を突き刺した。


 もう叫び声は上がらない。そのまま糸が切れたように倒れ込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「やった! 倒した!」


 エリンの喜びの声を聞いて、勝利を確信する。

 体から力が抜け、その場に座り込んでしまった。

 エリンが駆け寄り、抱きついてくる。その衝撃で倒れそうになるのを耐えた。


「やったね!」


「あぁ、なんとか勝てたな」


 エリンに続いて他のメンバーも近づいてくる。


「なんとか倒すことが出来たね」


 リオンも倒した事で安心したのか声に力がない。

 近づいてきたキーラにお礼を言う。


「キーラのおかげで助かった。ありがとう」


「間に合って良かった」


 キーラがフォローに来てくれなければ無事ではなかったかもしれない。


「モルナの魔法攻撃で動きが鈍った事で戦い易かった。ありがとう」


「光栄です」


「エリンとリオンもありがとう」


 二人ともこちらに笑顔を向ける


 エリンの肩を借りて立ち上がる。

 リオン、キーラ、モルナに視線を向ける。

 これまでの戦いや今回の戦いで上手く連携できることが分かった。相性は良い。

 道中や食事中の会話でも嫌な感じはしなかった。

 この三人は原作とは違うかもしれない。それなら少しだけ信じてみよう。


 だが、完全に信用したわけではない。

 まぁ、人を信じるためには時間がかかると言うことは、この三人に限った事ではない。


「三人とも、良ければ俺たちとパーティを組んでくれないか?」


「もちろん、喜んで」


 リオンが爽やかな笑みを浮かべる。

 キーラもそれに合わせてうなずく。


「こちらこそよろしくお願いします、アレス様!」


 モルナが空いている手を握ってくる。

 上手く連携は出来ていたし、キーラは危険を顧みず俺を庇ってくれた。


完全に信頼は出来ない。だが、これからパーティを組んで少しずつ信頼関係を作っていけば良いだろう。


 ゆっくりとルーデルス王国に向けて歩き出す。

 この三人との関係が原作とは違うことを祈って。

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