第25話 パーティメンバー
俺たちはルーデルス王国にある巨大な教会に呼び出されていた。白を基調とした建物で、派手な装飾はないものの、細かな彫刻が刻まれておりとても綺麗な建物だ。
この教会は他国にあるものと比べて大きいらしく、この国を象徴づける建物の一つとなっているようだ。
教会はどの国にもあり、国境に左右されない中立的な立場だ。世界中に信者が多く、わざわざこの教会を訪れるために他国から来る者もいるらしい。
俺は転生前も宗教に入っていたわけではないからよく分からない。強いて言えば宗教の美味しいとこどりみたいな感じだった。葬式ではお経を読んでもらっていたが、別に仏教を信仰していたわけではない。クリスマスやバレンタインデーもしっかり楽しんだ。色々とごちゃ混ぜで、どれか一つと言うわけではなかった。日本は割とそう言うところがある。
教会を訪れた俺たちは奥の部屋に案内されていた。そこには村に来た騎士団やホーゼスさん、そして聖女の姿があった。
「お話に入る前に、ちゃんと名乗っていませんでしたので、改めて自己紹介をさせて頂きます。私はルーナと申します。聖女となって日が浅いですがよろしくお願いします」
そう言って軽く頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします」
俺も同じように軽く頭を下げた。
「それでは勇者様、早速――」
「あ、あの……」
「どうしましたか?」
「勇者様ではなく名前でお願いできますか? なんだかむず痒いので……」
「わかりました。アレス様」
「様付けもちょっと……」
「では、アレスさんでよろしいですか?」
「はい、それでお願いします。注文が多くてすみません」
「いえ、大丈夫ですよ。それなら、エリンのように私のことも、ルーナで構いません。歳も近いようですし話しやすい口調で大丈夫ですよ」
「なら、お言葉に甘えて」
ルーナは優しく微笑んだ。
「では、お話の方に移らせて貰います。我々教会が勇者様方に協力をお願いするのは、人々の幸せな生活を守るためです」
実は世界征服が目的だと言われたらびっくりするが、だいたい想像通りの理由だ。
「強力な魔物のせいで苦しむ人たちも多く、その人達の助けとなるためには、勇者様のお力が必要なのです」
なるほど。確かに教会は大きな組織だが、戦いに特化していない。むしろ戦いとは離れたところにある。
「一つ疑問が……」
「なんでしょうか?」
「冒険者ギルドと協力すればいいんじゃないか?」
昔冒険者をやっていたアルデさんに聞いたことがある。
冒険者ギルドは世界中にあり、どの国にも属さない独立した組織だ。
冒険者は依頼を受け、その依頼を達成することで報酬を貰うことができる。命の危険があるが、たった一度の依頼で金持ちにもなれるし、英雄になる事だって出来る。そんな夢のある仕事だと言っていた。
「そうですね。教会と冒険者ギルドの関係はいいと思います。ですが、教会としてはいつでも動ける人材を確保しておきたいのです」
少し困ったような顔をし言葉を繋げる。
「それに、教会としては特定の誰かを特別に扱う事は出来ないのです」
中立というのもなかなか大変のようだ。
「ですが、勇者様ならば強力な加護を持ち、神々に祝福されています。ですから、教会としては協力を求めやすいのです」
「なるほど。そういうことか……」
「はい、そういうことです」
隣でエリンも納得したような顔をしている。
「では次に、今後の動きについてです――」
これからの動きについて話があった。教会からの依頼を優先して行ってほしいそうだ。
教会からの依頼は頻繁にあるわけではないので、その間は他の事をして金を稼ぐことになりそうだ。
参考までに他の勇者はどうしているか聞いてみると、三人とも冒険者として活動しているらしい。冒険者としてもかなりの功績を残しているらしい。
アルデさんの話を聞いて、もともと興味を持っていたので、俺も冒険者をやろうと思う。
それからも色々と話をしてひと段落ついた。
「今のところお話しすることは以上になります。何か不明な点はありますか?」
「いや、大丈夫だ」
「それならよかったです。これからよろしくお願いします」
そう言って手を差し出してきたので、握手を交わす。
ルーナの話が終わったタイミングでホーゼスさんが口を開いた。
「アレスさんの要求通りに、村への支援はさせて頂きました」
「ありがとうございます」
「いえ、こちらも力を貸していただくので当然です」
こんなに早く村への援助が決まるとはすごいな。ホーゼスさんは仕事ができる人なのだろう。見た目通りだ。
「話は変わるのですが、アレスさんは冒険者として活動をしていくつもりなのですよね?」
「はい、そのつもりです」
「そう仰ると思いまして、この国で力のある新人冒険者を数名集めております。よろしければパーティを組む候補として考えてはいかがでしょうか?」
冒険者はだいたい三人から五人程度でパーティを組むのが一般的だ。その方が安定して、生き残る確率が高くなる。俺とエリンでは少し不安が残るかもしれない。
たしか原作の主人公も冒険者として活動をしていた。その時は、パーティ候補の紹介などはなかった。理由としては、紹介されたメンバーよりも自分の目で確かめて決めた方が相性の良い者とパーティを組めるからだ。
主人公は自分で仲間を見つける事が出来ていた。それに相性ならば良かったかもしれない。戦いも安定していたし、パーティを組んでいる間はパーティメンバーは誰一人大きな怪我を負わなかった。
まぁ、最終的には裏切られてしまったけれど……
自分でメンバーを見つけた方が良いという考えには一理あるが、個人的には紹介してもらった方が助かる。正直どうやってメンバーを探したらいいか分からないからだ。
「パーティを組むかどうかは置いといて、会うことは出来ますか?」
「もちろんです。彼らは全員加護を持っているので力は十分にあります。気に入ってもらえることでしょう」
ホーゼスさんは騎士に、そのメンバー候補を呼んでくるように指示した。
「どんな人たちなんだろうね」
エリンはワクワクしているようだ。声が少しだけ弾んでいる。
俺も似たような気持ちだ。もしかしたらこれから仲間となって一緒に活動していくかもしれない人たちなのだ。どんな人達が来るのか楽しみだ。
しばらくすると扉が開き部屋の中へと入ってくる。騎士と一緒に入ってきたのは三人だ。
その三人の姿を見て言葉を失う。さっきまでワクワクしていた気持ちが一瞬で冷めていく。
男が二人に女が一人だ。三人とも整った容姿をしている。ホーゼスさんの言う通り加護をもっているようだ。
俺はこの人たちを知っている。もちろん直接面識はないが知っているのだ。
原作で主人公と共にパーティを組んでいた者達。いかにも好青年という感じの男は主人公の親友で、赤い髪を持つ女は婚約者だった者だ。
最悪だ。なんでよりによってこの三人なのか……
原作の主人公は冒険者ギルドでこの三人と出会いパーティを組むことになったのだ。だからパーティメンバーの候補を紹介してくれると言われて油断していた。
自分の顔が引きつりそうになるのを必死に抑えて、無理やり笑みを浮かべた。
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