第24話 到着2
案内された部屋はとにかくデカかった。転生する前でもこんなに大きな部屋に泊まったことはない。俺とエリンの二人でも十分過ぎるほどの広さで、ここに一人で泊まるのは逆に落ち着かない。
部屋の中をキョロキョロと見回していると後ろからエリンに声をかけられる。
「先にお風呂入るね」
「えっ?」
「もしかして先に入りたかったの?」
「い、いや、そういう訳じゃないけど……」
「そう? じゃあ、先に入らせてもらうね」
「どうぞ……」
そう言ってエリンは風呂場の方へと消えていった。
なんなんだこの状況は……昔は一緒にお風呂まで入っていたのに、今の状況に動揺している自分がいる。
最後にエリンと一緒にお風呂に入ったのはかなり前だ。俺が十二歳の時の話だ。
四年前か……割と最近だな。その時も見ないようにしていたが、順調に成長していたと思う。
落ち着かない。とりあえず体を動かして考えるのをやめよう。
俺は無心で筋トレを行った。
しばらくすると風呂場からエリンが出てくる。
「次、アレスどうぞって……それ、どうしたの?」
俺の全身からは汗が吹き出している。無心でやっていたせいで凄いことになっている。服もぐしょぐしょで気持ちが悪い。
「ずっと馬車に乗っていたから体が鈍っちゃったから少し運動を……」
適当なことを言って誤魔化す。
「ふーん、お風呂に入ってさっぱりしてきなよ」
「そうさせてもらう」
俺は逃げるように風呂場へ駆け込む。風呂から出てきたエリンの姿があまりにも刺激的すぎた。
かなり薄着で、なんというか女の子って感じの服装だった。昔から寝るときは寝やすい服を着るというタイプだったが、今回の服は少し開放的過ぎる気がする。あまり無防備な姿を晒されると心配になる。
俺は汗でぐしょぐしょになった服を脱ぎ捨てると、何も考えないように熱いお湯で体をゴシゴシと洗った。
風呂から出るとエリンがベッドの上で荷物の整理をしていた。
俺に気がつくとこちらに視線を向ける。
「ごめんね、もうすぐ終わるから」
そう言って手早く片付ける。
「お待たせ、それじゃ寝ようか」
「そうだな、明日から色々始まるだろうしゆっくり休もう。俺はその辺の床で寝るから、ベッドはエリンが使ってくれ」
「何言ってるの? 一緒にベッドを使えば良いでしょ。こんなに大きいのに」
確かにベッドはデカい。二人で寝ても全く問題ないくらいの大きさだ。
「体をしっかりと休めないとダメでしょ。それに何回も一緒に寝た事があるんだから今更気にしないの」
こうなったらエリンを説得するのは難しい。このままだと、エリンが床で寝ると言い出すだろう。さすがにそれはなしだ。
「わかったよ」
「よろしい」
そう言って笑う姿は少し子供の頃を思い出した。
ベッドに横になると、触れていないのにエリンの体温を感じるような気がする。
動揺を隠すようにエリンに背を向けて寝る。
「おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
なんだか落ち着かなく寝付ける気がしない。
しばらくの間全く眠くなかったが、突如睡魔に襲われた。風呂に入る前に筋トレをしたのが良かったのかもしれない。
重くなる目蓋をそっと閉じ、俺の意識は夢の中へと落ちていった。
◆◆◆◆
【エリン目線】
さっきまでごそごそと動いていたアレスは寝息を立てて寝てしまった。こっちはドキドキして全然寝れないのに……ずるいと思う。
私だけが意識してアレスが普通に寝ているのがなんだか納得がいかない。
アレスの背中を眺める。子供の頃とは違う大きな背中だ。そばにいるだけで安心できる。ただ一つだけ問題があるとすればドキドキしてしまう事があるという事だ。
私にとってアレスが大切な存在だという事は昔からずっと変わらない。ただ、少しだけアレスに対する思いが変わったのだ。
森でブラックグリズリーと呼ばれる巨大な魔物に襲われたとき、私を助けてくれた。あの時のアレスはすごくかっこよくて、助けに来てくれたことが嬉しかった。
その日からアレスのことが、『家族として好き』から『一人の男の子として好き』になったのだ。
当時は自分の気持ちの変化に戸惑ってしまった。寝ても起きてもアレスが頭の中にいた。どうしたらいいのか分からなくて、ママやローナさんに相談したこともあったほどだ。
恋という感情を自覚してから少しずついろいろなことが気になるようになった。
例えば視線だ。あまり気にしていなかったが、他の男の子から向けられる視線が気になるようになった。ちょうど胸も大きくなり始めたから、よく視線が胸に向いていたことがわかった。正直に言って嫌だった。男の子達は気付いてないと思っているだろうけど、そういった視線は分かる。
アレスもちょくちょく私の胸を見ているのを知っていた。でも、不思議と嫌ではなかった。むしろ見られて恥ずかしいけど、少しだけ嬉しい気持ちもあった。だからかもしれないが、強引にアレスと一緒にお風呂に入った。アレスがどんな反応をするのか気になってしまったのだ。やっぱりアレスはチラチラ見てくるが嫌ではなかった。必死に誤魔化そうとしているアレスが面白くて、ついついからかいたくなってしまった。
「うっ……ん……」
そんなことを思い出していると、アレスが寝返りを打つ。アレスの顔がこちらを向く。寝ているとまだまだ子供っぽい。
ふと、アレスの唇に視線が行く。その瞬間、忘れたいような忘れなくないような恥ずかしい過去を思い出す。恥ずかしさで身悶えてしまう。
「っーーんっーーーっ」
実のところファーストキスはすでにアレスにあげている。
だが、アレス本人は覚えていない。いや、知らないのだ。
アレスへの恋心を自覚してから、どうしたら良いのか分からなくなり暴走してしまった時があった。
寝ているアレスを起こしに行った時、無防備に寝ている姿を見て、思わず自分の唇をアレスの唇にそっと触れさせた。
ほんの出来心だった。自分でもなんであんなことをしてしまったのか分からない。それから一週間くらいまともにアレスの顔を見ることができなかった。そのおかげでアレスへの気持ちと向き合うことができたけれど……
優しくアレスの髪を撫で付ける。一度寝てしまえば割と何をしても起きないのは知っている。
「ふふっ、子供みたいな寝顔」
するとアレスは寝返りを打ち、また背を向けてしまった。
びっくりした。いきなり動いたから、起きたのかと思った……
アレスに近づくとその大きな背中に額を押し当てる。温かく、優しい匂いだ。とても安心する。
村を出て新しい環境でどうなるか分からないけど、アレスと一緒なら大丈夫な気がする。なんの根拠もないのに不思議だ。
「おやすみ、アレス」
眠気に襲われた私は、幸せな気持ちのまま目蓋を閉じた。
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