第14話 絶望
森の方へと全力で走る。一分でも一秒でも早くエリンのもとに辿り着くために、必死に足を動かした。
森の入り口付近まできたところで、誰かが森の中から転がるように出て来た。
そこにいたのはデルといつも一緒にいる二人だ。
そこにエリンの姿は――ない。
「おい! エリンと一緒じゃなかったのか!?」
俺が声を上げると驚いたようにこちらを見る。だが、視線が泳いでいる。
「なんとか言えよっ!」
「えっ……あっ……」
俺はデルの胸ぐらに掴みかかった。
「なんでエリンは一緒じゃないのかって聞いてんだよっ!」
デルが震える唇を動かした。
「で、でかい黒い熊の魔物に襲われたんだ。だから必死で逃げて来て……」
「なら、なんでエリンがここにいないんだっ」
思わずデルを掴む腕に力が入る。
「……ぐぅ……エ、エリンは俺たちの逃げる時間を稼ぐって言って……」
「なんだと!?」
エリンはこいつらを逃すために囮になったのか。そしてこいつらはエリン一人を森に置き去りにして逃げ出して来たのか……ふざけやがって。
「おいっ、エリンはどっちの方に行った?」
「お前助けに行くつもりなのかよ? 無駄だ、助かりっこない」
「いいから何処にいるのか教えろって言っているんだよっ」
「ひっ」
引きつるような声を出し、真っ青な顔をしたデルは、森の奥の方を指差す。デルを捨てるように、掴んでいた手を離す。
「ガッ……」
地面に体を打ち付け呻き声を上げる。
急いで森の奥の方へと向かう。
エリンだけ森に置き去りにして逃げて来た奴らのことなど知らない。今は一刻も早くエリンのもとに行くことだけしか考えられない。
心臓が痛い。浅い呼吸を繰り返す。怒り、不安と焦りで、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
俺は一心不乱に足を動かした。
◆◆◆◆
かなり奥の方まで来たがエリンの姿はない。
「エリンっ! どこだっ、いたら返事をしてくれっ」
その時大きな音が響き渡る。木が折れて倒れたような音だ。
エリン!?
俺は音のした方へと向かった。
そこには巨大な黒い塊が居た。その正体はブラックグリズリーだ。その奥にエリンの姿があった。
物語と同じ状況だ。
「エリン!」
エリンは俺の方を見ると大きく目を見開いた。
「アレス!?」
「待ってろ、今助けてやるからな」
「なんで来たの!?」
「助けるために来たに決まっているだろっ」
俺近くに落ちている石を掴むと、それをブラックグリズリーに向けて投げつけた。
「グォッ」
投げた石は頭にぶつかると、呻き声を上げるこちらを睨みつけてくる。
エリンから意識が完全にこちらに向いた。
ブラックグリズリーは俺目掛けて突進してくる。それを横に飛び回避する。そして、もう一度石を投げつけた。
「グォォッ」
さっきの声とは違い、そこには怒りの感情が含まれている。
「こっちだデカブツ!」
俺はブラックグリズリーがこちらを追いかけて来ていることを確認して走る。
目指すのは、エリンが森に入ってしまった時にブラックグリズリーを倒すために仕掛けた罠がある場所だ。
森は走りにくいが、木が沢山あるおかげで、木を上手く使いながら距離を稼ぐことができる。
罠の位置は目印がついている。
そこまで一気に走り抜けると、大きくジャンプした。
後ろを振り返ると、襲い掛からんばかりの勢いでこちらに向かって突っ込んでくる。
俺は挑発するように声を上げた。
「こっちだっ、さっさと来い!」
向かって来ていたブラックグリズリーの体が沈んだ。
俺が作った落とし穴にはまったのだ。体のほとんどが穴の中に収まっている。出ている部分といえば頭と肩くらいだ。
以前村長さんの家で読んだ本に、ブラックグリズリーは目が悪いと書いてあった。そのことから、足元に罠を作ろうと考えた。子供の俺には、複雑な罠を作ることができない。簡単に作れるものと言えば落とし穴くらいしか思い浮かばなかった。
結果的に俺に意識が向いていたということもありうまく行った。
ブラックグリズリーは穴から抜け出そうともがいている。このチャンスを逃すわけにはいかない。
後ろに回り込むと、この穴から出ている頭に向かって剣を突き刺した。
「ガァァァァア」
痛みに苦しむような叫び声を上げる。大きく暴れている。
さすが魔物と言ったところか、一度くらい剣で刺しても死なないのか。
俺は確実にブラックグリズリーの息の根を止めるために、何度も何度も頭目掛けて振り下ろした。何度刺したか分からなくなるほど必死に攻撃を続けた。
次第にブラックグリズリーの動きが弱まりついには動かなくなった。
やったのか?
しばらくしても動き出す気配はない
やった! 上手くいったぞ! 運命を変えられたんだ!
喜びが溢れてくる。
だがその時だった。いつの間にか後を追いかけて来たエリンが悲鳴のような叫び声を上げる。
「アレス!?」
え?
突如横からすごい衝撃に襲われる。
訳がわからないまま、何もできずに吹き飛ばされ、地面に体を強くうちつけた。肺から空気が漏れる。上手く息をすることが出来ない。
な、なんだ!?
慌てて吹き飛ばされた方向を見る。
「なっ!?」
目を疑った。そこにいたのはもう一体のブラックグリズリーだった。
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