第2話 最悪の転生
頭が痛い。殴られたような痛みだ。
「――ス、ア――ス、アレス!」
体を揺すられている。俺はゆっくりと目を開ける。すると、綺麗な金色の髪を持ち、驚くほど整った顔立ちをした女の子がこちらを覗き込んでいる。その目には涙が浮かんでいた。
「よかった、目を覚まして!」
横になっている俺に覆いかぶさるように抱きついてくる。
たしかエリンと一緒に遊んでいて……いや、違う。本屋に行こうとしてそれで……
突如ひどい頭痛に襲われる。頭が割れるように痛い。
「がぁっ」
エリンが勢いよく顔を上げる。不安そうな表情でこちらを見てくる。
「どうしたの!? 大丈夫?」
あぁ、思い出した。俺は車にはねられて死んだんだ。
ならこれは夢か? 自分の体を触る。いや、夢ではない現実だ。
俺は死んだはずなのになんで生きている?
もしかして転生と言うやつだろうか?
一度状況を整理してみる。
俺は幼馴染のエリンと遊んでいると、頭に強い衝撃を受け気絶してしまった。そして目を覚ました俺は前世の記憶を思い出したのだ。
今の俺の名前はアレスだ。
アレス? どこかで聞いたことあるような気がする……
「ねぇ! 大丈夫?」
心配そうにこちらを覗き込んでくる。
「大丈夫だ。……エリンだよな?」
「そうだよ? もしかして強く頭を打ったから……」
「悪い、少し混乱していただけだ」
「そっか、私アレスが死んじゃうのかと思って凄く心配したんだから」
起き上がり、目の前の女の子を視線を向ける。生まれてからずっと一緒にいる幼馴染だ。
アレス……幼馴染……エリン……
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 思い出した!
俺は知っている。読んだのだ!
この世界は俺が死ぬ前に読んでいた物語と似ている。
アレスという名前、幼馴染、そして俺が生まれた村の名前。何もかも同じだ。
……最悪だ。よりによってなんでこんな世界に転生することになってしまったのか。この物語で主人公は悲惨な目に遭う。そして主人公の名前はアレスだ。
まさか悲惨な目に遭う主人公に転生してしまうとは……
全身から力が抜け、頭の中がぐるぐると回る。もう訳がわからない。俺はもう一度倒れ込んだ。
「アレスッ、アレス!?」
◆◆◆◆
目を覚ますと、知らない天井が目の前に広がっていた。
起き上がろうとすると、体に重みを感じた。そちらの方に視線を向けるとエリンが寝ている。
俺の看病をして疲れて寝てしまったようだ。心配をかけてしまったようだ。
起き上がると起こしてしまいそうなのでやめた。
寝て起きても何も変わらない。やはり現実なのだ。
これまで、この世界で生きてきた八年間の記録はしっかりとある。前世の記憶を思い出しただけで特に何も変わらない。忘れていた昔の思い出を思い出したようなものだ。
もし、この世界が俺が読んだ本と同じ世界なら、俺はとんでもなく悲惨な目に遭う。
はぁ……よりによってなんでこの世界なんだ。
これから起きる悲惨な出来事を黙って受け入れるつもりはない。なんとかして回避しなくては!
ここで一つ問題がある。俺は第一巻しか読んでいないため、何もわからない。分かっている事といえば悲惨な目に遭うと言うことくらいだ。
この世界のこと、主人公のこと何一つ知らないのだ。
くそっ! 続きを読んでいれば!
第一巻では明かされている事は、ほんの僅かだ。
当然だ。物語が進んでいくにつれて色々なことがわかってくるのだ。一巻で何もかも明かされている方が異常だ。
これからどうするべきか?
「……ん、うぅん……」
考え込んでいると、エリンが目を覚ました。
目が合うと花のような笑顔をこちらに向けてくる。
「おはよ!」
「あぁ、おはよう。心配かけて悪かったな」
「気にしないで。アレスが元気になってよかったよ!」
目の前の幼馴染を見て思い出す。エリンは俺を庇って魔物に殺されてしまうのだ。
死ぬと分かっていて見過ごすわけにはいかない。
物語と同じなら、エリンは十歳の誕生日を迎えてすぐに死んでしまう。今から二年後のことだ。
大切な幼馴染を死なせはしない。
目の前に迫った悲惨な運命を変えてやる!
その為に、やらなくてはいけないことが沢山ある。まず、この世界のことについて出来るだけ情報を集めよう。
村の人たちに聞けばいいだろうか? そう言えば、村長さんの家には大量の本があったはずだ。頼み込めば読ませてもらえるだろう。
あとは自分自身のことについてだ。主人公の力は一体なんなのだろうか……いろいろ試してみよう。
そう言えば主人公は勇者の加護を持っていたはずだ。俺にもあるのか?
気になることが沢山ある。
そうだ、訓練も開始しよう。早く強くならなくてはいざという時に困る。
やることが多い。悲惨な運命を回避する為に思いつくことは全部やろう。
悲惨な運命なんてぶち壊してやる!
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