天井からぶら下がる幽霊と満ち満ちた狂気

高ノ宮 数麻(たかのみや かずま)

女の幽霊と狂気

 不意に目が覚めた。

 寝苦しかったわけでも、十分な睡眠をとりきったわけでもない。ただただ単純に目が覚めた。


 目を開けた瞬間、真っ黒い髪の若い女と目が合った。


 その女は天井からぶら下がり、僕の顔を覗き込んでいた。僕はすぐにその女が幽霊の類だと気付いた。


 女の顔は青白く、その目は狂気に満ちている。


 僕と目が合ったことに気付いた女は、天井にぶら下がったまま、にゅうっと伸びて、僕の眼前わずか1〜2cmのところまで迫ってきた。


 僕は、思わずその女を抱きしめ、キスをした。女はひどく動揺し、さっきまで青白かった頬が少し赤く染まった。


 女は僕を両手で思い切り突き放し、そのままスルスルと天井に吸い込まれてしまった。女が消えた天井を見ながら、僕は「なんてことをしてしまったのだろう」と後悔していた。


 僕とあの女はまだ自己紹介すらしていない。互いを知らないのに急に抱きしめてキスをするなど、ただの痴漢と同じだ。


 あの日から僕は毎日あの女が現れるのを待ち続けている。今度こそまずは恋愛のマナーとして、告白から始めたいと思う。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天井からぶら下がる幽霊と満ち満ちた狂気 高ノ宮 数麻(たかのみや かずま) @kt-tk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ