第422話 次はお前達

 数十分前までは、アナスタシア教の総本山にしてアナスタシア教国の聖地。

 人が一歩その足を踏み込めば立ち待ちに凍えてしまう猛吹雪が常に吹き荒れる極寒の環境の中で唯一穏やかな陽光が差す神殿が鎮座する霊峰ルミエル。


 そんな霊峰ルミエルの背後に延々と広がっていた、この大陸を東西に分断する広大な大山脈が綺麗さっぱり消滅し。

 視界の限りどこまでも続く荒野にて!


「ギャァぁっ!!」


「痛いぃっ! 痛いぃぃぃっ!!」


「た、助けてくれぇっ!」


「ゆゆゆ! 指がっ!! 私の指がァァァア!!」


 必死になって逃げ惑う人間共の! 悪魔に蹂躙される人間共の悲鳴が鳴り響く!!

 むせかえるような血の匂いが辺り一帯に充満するっ!!


「あはっ!」


 せいぜい必死になって逃げ惑え!

 まっ! 半分ほどはぶくぶくと肥え太って贅肉を携えた身体をしてるし。

 殆どは戦場に出た事なく、安全なお屋敷の中でぬくぬくと生活してるようなヤツらだ。


 中には数名ほど、かつての旧魔王との戦争で前線に立っていたような英傑もいるようだけど……下位や中位とは言え、このゴミクズ共程度が悪魔から逃げられるわけがない!!

 ましてや、悪魔達に勝つ事なんて不可能なのだっ!


「っ! やめろ……もう、やめてくれ……!」


「うっ……」


 勇者様なのに目の前で人間共が蹂躙されているにも関わらず何も……動く事すらできず、ただただ見ている事しかできないからって情けない声を出しちゃって!

 アバズレ聖女は気分でも悪くなったのかな? ふふっ、この程度で青い顔になっちゃって!


「どう? この処刑、気に入った?」


「なぜ……なぜキミはこんな事ができるんだっ!?」


「こんなの! こんなの、ただの虐殺ですっ!!」


 なぜって言われても、ねぇ?

 これはヤツらに対する復讐なわけだし、あんなヤツらに時間をかけるのは面倒……こほん、時間が勿体無いから本来なら何日もかけて殺してやりたいところを我慢して短縮してるけど。


 少しでも私が受けた拷問の苦しみを。

 私の両親が、兄が、妹が、弟が……私の家族や使用人の皆んなみんなに唯一私の味方をしてくれた親友が受けた苦しみを。

 その恐怖と絶望を味わってもらうわないと!


 それに、これがただの虐殺だから何?

 これは罪人であるヤツらの処刑!!

 これまでアイツらが権力にものを言わせて好き勝手やってきたように、一方的に蹂躙されて! 踏み躙られて! 虐殺されるのは当然じゃん!!


「かつてのキミは……こんな事をする人じゃ……いや、できる人では無かったハズだ!!」


「どうして貴女はこんなにも酷い事ができるんですかっ!?」


「ふふふ、あはっはっはっ!」


 いやぁー、流石にこんな事を言われるとは思ってなかった。


「……その、かつての私を、殺したのは、お前達だ」


 かつてのキミはこんな事ができる人じゃ無かった?

 そんな私を聖女を殺そうとしたって思い込み、アバズレ聖女の悪魔だって証言以外に確かな証拠も何も無いくせに冤罪で拷問して、公開処刑したヤツが何言ってんの?


「コレは全部。

 あのゴミクズ共が殺されるのも。

 この戦争が勃発して、大勢の人間が死んだのも。

 全部、全〜部! お前達のせい」


「私達の……」


「っ!」


「そう、アイツらは、お前達のせいで死ぬし。

 大勢の人間共は、お前達のせいで死んだ」


 何せクズ勇者共が私を殺さなければ、私が悪魔になる事も無かったわけだし。

 まぁ、あのゴミクズ共は権力が欲しさに、これ幸いと私の家族や大切な人達を皆殺しにした事が私が悪魔に転生するきっかけの1つになったんだし自業自得でもあるわけだけど。


「レフィーお嬢様。

 あの者共の処刑が完了したようです」


「ん、わかった。

 じゃあ、予定通りに」


「かしこまりました」


 さてと! とりあえず醜い権力者共の処刑は何事もなく無事に終了したわけだし!!


「お待たせ。

 次はお前達だ」

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