第416話 お帰り

「ふふっ」


 神滅、ね。

 御大層な名前だけど……まさか、この程度で私を殺せるとでも?


「神能・創滅ノ神……」


 ふふんっ! 神級の神能を持つ私と、所詮は帝級の神能しか持たないお前とでは格が違うのだよ!!


「むっ」


 手が消滅……いや、これは魔素に分解された?

 手だけじゃない! 足も……身体が崩壊していく!?


「神滅は全てを浄化し、魔素へと還す白き神の光。

 確かに帝級である美徳ノ帝しか持たない私では神級の神能を有する貴女には及ばないでしょう。

 しかし、勇者ノアール達の擬似神能の権能を束ねたこの神滅なら貴女にも届きます」


「ッ! このっ……」


 身体を維持できない!


「さぁ、世界へと還るのです」


「クソ、女神、がぁっ……」








「……やった?」


 白く染め上げていた神聖な光に包まれて、魔神レフィーが光の粒子となって完全に消滅する。


「やった! やったぁ〜!!」


 神滅の白い光が収まり、静まり返った荒野に聖女リナの歓声が鳴り響く。


「ふぅ〜、流石に疲れ……うわっ!?」


「ノア! ついに、あの魔神に勝ったっ〜!!」


 喜びのままにリナに抱きつかれた勇者ノアールがバランスを崩してもつれるようにして地面に倒れ込む。


「リナ……いきなり抱きついてきたら危ないだろ?」


「ぅ、ごめんなさい。

 でもでも! 私達、あの魔神レフィーに勝ったんだよっ!!」


「はぁ、ノア、リナ。

 2人ともイチャイチャするのは結構ですが、少しは時と場合を考えてください」


「クリス! べ、別にイチャイチャなんて……」


「あはは、ごめんごめん。

 それにしても、流石に今回は疲れたね」


「確かに何度も殺される経験なんて普通はできないし、そもそもしたくないもんね」


「あぁ、死ぬ毎に身体と一緒に精神状態も元通りにリセットされて助かったね。

 じゃないと確実に気が狂っていたよ……あ〜、しばらく何もしたくない!」


「全く、天下の勇者様が何情けない事を言っているのですか?

 ほら、ノアもリナも立ってください。

 早く拘束されてるガスター達を助けないとダメでしょう?」


「ははは、そうだね」


「うん!」


 差し出されたクリスの手を取り、ノアールとリナの2人が立ち上がったその瞬間……



 ビシッ──!!



 空間に亀裂が走る。


「これは……」


「何っ!?」


「いったい何が!」


「皆さん、こちらへっ!」


 困惑するノアール達に熾天使パウロが焦った様子で声をかける。


「パウロ殿! これはいったい……」


「この世界の主であった魔神レフィーが消滅した事によって、この世界はもうすぐ崩壊します!」


「っ!」


「えっ!?」


「なっ!!」


「我々もすぐにこの世界から脱出しなければ世界の崩壊に巻き込まれてしまいます!」


「そんな! 早くガスター達を助けないと!!」


「ご安心を、ガスター殿達はバルトロ達が救出に向かいました。

 アナスタシア様がこの世界から元の世界への世界転移を準備して下さっていますので、我々も早くアナスタシア様の元へ向かいましょう!!」


「わかりました!」


「はい!!」


「承知しました」


 翼をはためかせ、先導するパウロの後についてノアール達3人は英雄に相応しい速度で地鳴りが鳴り響いて揺れる地面を……崩壊を始めた世界を駆け……


「お待たせ致しました!」


「早くこちらへ!」


 既に女神アナスタシアの元にはガスター、マリアナ、フェリシアの3人を始め。

 パウロ以外の他の熾天使達の姿もある。


「では、これより世界間転移の術式を展開します。

 全員、この魔法陣から出ないようにしてください」


 アナスタシアが、バッ! っと手を翳すと同時にアナスタシアを中心にノアール達の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。


「ガスター、マリアナ、フェリシア。

 大丈夫か?」


「ん? あぁ、俺達は何故か捕まっていただけで大した怪我は無かったからな」


「大した怪我は無いって……片足を斬り落とされてずっと放置されてただろ?」


「逆に言えば、それだけだ。

 それも女神様に回復してもらったしな、問題ねぇよ。

 それよりも……俺は、あの魔神レフィーがあの程度で簡単にやられるとは思えねぇ」


「私もガスターに同意するわ」


「私も……」


「それに、もし本当にアレで魔神をれてたとしてだ。

 元の世界に戻ったら、魔神レフィーの配下の化け物共がいやがるんだ。

 気を抜くのは早過ぎると思うが?」


「それは……」


「心配ありませんよ、冒険王ガスター。

 神滅から逃れる術はありません、魔神レフィーは確実に滅びました。

 それに、眷属とは主人の死と同時に死に絶えて消滅します。

 彼女の配下……魔神レフィーの眷属達は彼女の死と同時に消滅している筈です」


「そうだよ! ガスターは心配し過ぎるだって!」


「リナ……そうだと良いんだがな……」


「きっとそうだよ!」


「ふふ、えぇ、リナの言う通りですよ。

 さて、準備が整いましたので、これより転移でこの世界から脱出します。

 多少の衝撃があると思うので気を付けてください」


 一際強く魔法陣が光り輝き……


「魔神レフィー……私達の過ちが生み出してしまった哀れな子。

 どうか安らかに」


 崩壊する世界から女神アナスタシア達の姿が掻き消えた。


「っと……」


 世界の壁を乗り越え、元の世界に戻ってきた衝撃で少しバランスを崩した勇者ノアールが同じくバランスを崩した聖女リナを支えながら周囲を見渡す。


 大山脈が消し飛び、どこまでの続く荒野が広がり。

 黒く染まっていた空からは青空が覗き、太陽の暖かな光が大地を照らす。


「本当に、終わったんだね」


「うん」


 凄惨ながらも、どこか穏やかな空気を醸し出す光景に感傷に浸りながら戦いの終わりを実感し……


「ふふっ!」


 背後から聞こえて来た笑い声に。

 あり得るハズのないその声に……勇者ノアールが、聖女リナが、熾天使達が、そして女神アナスタシアの顔が凍り付く。


「お帰り」


 嘘だと思いながら振り返った勇者……クズ勇者ノアール達の視線の先。

 そこには強大な悪魔である七魔公と眷属である七眷属、14人を背後に引き連れて、太陽を背に純白の翼を広げるこの私!

 魔王が一柱、魔神レフィーが無傷で微笑んでいた!!

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