第402話 それでも…… その2
「私が」
私が命じたから?
だから高位貴族の、筆頭公爵家の御令嬢だと言うのに彼女は地下牢に繋がれるなんて本来ならあり得ない暴挙が許された……?
あの時……リナに付けていた騎士からリナが襲われたと報告を受け、騎士達に取り押さえられた彼女を地下牢に放り込んでおくように命じた後。
目を覚まし、一通りの説明を受けたリナは確かに言っていた……
あの方は何も悪くないのだと。
慣れない王宮で疲労が溜まっていただけで、倒れてしまったのは自分の責任なのだと。
しかし、私はリナのその言葉を心優しいリナが彼女の事を庇っていると曲解して捉えてしまった。
けど、脳内で激痛と共に焼き付けられるように浮かんでくる彼女の記憶では、指一本触れていない彼女の目の前で突然リナは倒れてしまった。
まさか、まさかあの時のリナの言葉が彼女を庇っていたわけでも何でもなくただの事実だったなんて……
「何故……」
何故、あの時私はあのような事を。
私から婚約を破棄されてた彼女が新しく私の婚約者となるリナに嫉妬してリナの事を襲ったのだと勝手に決めてつけて……
婚約者がいる身でありながらリナを愛してしまった事は他者からしてみれば浮気と罵られても仕方がない。
事実、当時の彼女からしてみれば私の行為は誠意の欠片もない最低な浮気以外の何物でも無かったハズだ。
それでも……前線で戦う私達のバックアップを務め、あの戦争を後方で支えてくれた陰の立役者である彼女に。
一言すら労う事もなく、開口一番でおざなりに婚約を破棄すると告げた私に恨み言を言う事もせず、国に何も言う事も出来ず。
粛々と受け入れた彼女に対してなんて仕打ちを……!
『全部、お前達のせい』
以前、アルタイル王国の王城で魔神レフィーに言われた言葉が脳裏に蘇る。
全部、お前達の……私達のせいか。
確かに、このような仕打ちをした私は彼女から恨まれてもしかたがない。
私があのような仕打ちを彼女にしてしまったせいで、私への憎悪を抱き彼女は悪魔となってしまった。
彼女が地下牢に囚われていると知ったリナは、何かの間違いだからと、彼女と話せばわかるからと私達を説得し。
私は渋々、リナと共に地下牢にいる彼女の元は向かった。
そして、地下牢への階段を降り、流石に心労が祟ったのか最奥の牢に繋がれて気を失っている彼女を視界に収めた瞬間……
『ひっ!』
隣でリナが喉を引き攣らせたような、息を呑むようなか細く、小さな悲鳴をあげて、その顔からみるみる血の気が引いて青褪める。
『リナっ!?』
『そ、そんな……』
青褪めながらも、両目に涙を浮かべて掃除も大してされていない地下牢の床に座り込み……私達に告げた。
『あの方は、あ、悪魔……』
『リナ? リナっ!?』
酷く怯えた様子で悪魔と告げたリナは気を失い。
何が何やら理解できていない私は地下牢に繋がれた彼女がリナに危害を加えたのだと勝手に思い込み。
少し前までは信頼していたハズの彼女を軽蔑し、嫌悪感を抱きながら早急にリナを連れて地下牢を去った。
その後、目を覚ましたリナから悪魔について説明を受けた。
悪魔とは人を弄ぶ悪意の塊であり、気まぐれに人の願いを聞く事はあってもその対価として必ず厄災を呼ぶ巨悪。
闇に属する魔の種族であり、聖女あるリナにはその邪悪な気配でわかるという。
そして悪魔として本性を表した彼女から感じる邪悪な力の波動は、私達が命を賭して打ち倒した魔王すら凌駕すると……
彼女を目にした時の恐怖からか青褪めて、震えながら、私もそのくらいの事しか知らないの、ごめんなさい……と気を落とすリナを慰めていると護衛の騎士の1人がポツリと呟いた。
『もしや、今回の魔王の復活も悪魔の仕業じゃ……』
『まさか……』
だが、それだと説明がつく。
裏で操っていた魔王という駒を潰され、暗躍する自身の障害となるリナを排除しようとしたのではないか?
一度そうだと、それ以外に考えられなくなった。
リナに危害を加えるような者を野放しにするわけにはいかない。
捕らえた彼女以外にも他の悪魔が潜んでいる可能性。
そして悪魔である彼女を娘としていた公爵家を徹底的に調査する必要がある。
『すまないリナ、今の話を陛下に伝えて来るよ』
『ノアール……』
『何も心配はいらない。
彼女は……ヤツは捕らえた、もうリナには指一つ触れさせないから安心して』
『うん、わかった』
『じゃあ、行って来るよ』
不安気なリナなら頭を撫でて部屋を出ると控えていた騎士達に命じる。
『何としでも情報を吐かせるんだ。
公爵家の者達も拘束しろ』
『はっ!』
『やり方は任せるが、何としてでも必ず情報を吐かせるんだ』
『かしこまりました』
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