第382話 暴食の悪魔姫

「っ! レフィーお嬢様っー!!」


 あぁ、シルヴィア。

 皆んなみんなも、そんな顔をしなくても良いのに。


『「うふふ、主人が心配なら動かないでくださいね?」』


「「「「「「っ!!」」」」」」


 クソ女神の言葉に、後方から転移してやって来たシルヴィア眷属達が顔を顰める。

 くそっ! 油断した。


「かふっ」


 喉を逆流して迫り上がって来た血が口から溢れる。

 貫かれた胸から血が滲み出て、服に赤いシミができる。


「っ……」


 痛い。

 痛覚なんて無効化されるハズなのに、剣に貫かれた胸が焼けるように痛い。


 こんな激痛は久しぶりだけど。

 まぁぶっちゃけ、このくらいの痛みはクズ勇者共にされた拷問のおかげで慣れてる。

 今重要なのはこの痛みじゃ無くて……


「なん、で」


 問題はこの白い剣が私の心臓ごと身体を貫いて串刺しにしてくれてるって事実。

 そして、これをやってくれた人物。


 魔素が乱れてるせいで魔素支配による感知ができずに、私の意識はクズ勇者共に向かっていたし。

 剣に貫かれるまでクソ女神の気配なんてどこにも無かった。


 そして何より……この戦場において、仲間の気配の動きをそこまで警戒して無かった。

 だからこそ、こうして剣に貫かれるまで気が付かなかったし反応すら出来なかった。


「ショウ……」


 いや……


「アナスタシア」


『「お久しぶりですね、レフィー」』


 クソ女神め、ショウの身体に憑依して乗っ取ってるのか。

 ショウとレオンが魔国に来た時に、ショウに取り憑いていたコイツの魔素は確かに絶った。

 アナスタシアとショウとの繋がりは絶ったハズなのに……


「なんで、お前が、ここに」


『「うふふ、無理に喋らない方がいいと思いますよ?

 しかし、貴女の言いたい事はわかります。

 どうして私がこの子の身体に憑依しているのか? と、疑問に思っているのでしょう」』


 本当にムカつく。

 この、私のことを小馬鹿にしたような声音がウザいっ!


『「確かに、この子に宿した私の魔素エネルギーは貴女の手で消し飛ばされました。

 ですが、一度確立した回路を用いれば再びこの子の身体を借りる事など容易な事なのです」』


「このっ!」


 自分自身は安全圏から依代を使ってちまちまとせこい攻撃して来やがって!!


「っ……! レフィー、様!!」


『「っ! これは驚きました。

 まさか人の身でありながら、私の支配に抗うとは」』


「ふん」


 当然だ。


「ショウは、私が鍛えた」


 今のショウなら、私に気取られない程度の魔素での支配なんて多少の時間があれば自力で破れる。


『「どうやら、時間はあまり無いようですね。

 勇者ノアール、聖女リナ率いる救世の六英雄、そして私に仕える五大熾天よ! 今が好機です!!」』


 好機? たかだか剣で私を刺した程度で調子に乗るなよ?


「っ──! ぐぅ……っ!?」


『「この剣は私の魔素で構成された神聖な剣。

 貴女に……対悪魔に特化したこの剣は内部から貴女の魔素エネルギーを分解し、肉体と共に魂をも浄化します」』


「ぅ……こんなの」


『「そう、それでもこの程度で貴女を滅する事はできないでしょう。

 しかし、動きを止める程度は可能です」』


 っの、ヤロウっ……!


『「聖印」』


「っ!!」


 動け無いし、声も出ない……


『「理由はわかりませんが、レフィーは魔素の乱れによってかつて無い程に弱っています!

 今のうちに皆の力で強大な悪魔を討ち滅ぼすのですっ!!」』


 弱ってる? 誰が??

 討ち滅ぼす? 誰が、誰を??


「神剣ワールド! 断魔ノ太刀っ!!」


「神杖オリジンっ! 聖女の抱擁っ!」


「消滅せよっ! 神聖魔法・聖なる巨弾っ!!」


 クズ勇者ノアール、アバズレ聖女リナ、教皇クリスの……


白き閃光ホワイトレイ


「穿たれよ、天の聖槍!」


「神ノ剣、聖閃っ!」


「安らかに眠れ、聖なる祝福っ!!」


 熾天使共の……


「るな……」


 この程度の攻撃で、この私を滅ぼせる?


「ナメるなっ!」


 確かに、今の私は何故か魔素が乱れてまともに魔法が発動しない。

 けど……だからどうした?

 魔素が乱れて魔法が発動しないなら、膨大な魔素そのものを放出すればいい。


『「っ!!」』


 放出した魔素によって、飛来して来ていたクズ勇者共の攻撃が掻き消える。


『「なっ! 聖印が……!!」』


 聖印ね。

 確かに魔法が使えない今、この封印を解くのは難しいけど。

 魔素で無理やり消し飛ばしてしまえば関係ない。


『「ま、まだです!

 悪魔である貴女はこの剣に触れる事すらできない。

 この剣がある限り聖印は何度でも展開することができます。

 そして貴女の魔素は消失し続け、いずれ貴女は力尽きるのです」』


 魔素が消失し続けるのなら……私の身体を縛る忌々しい聖印が展開されるより早く、この剣のエネルギーも。

 周囲に! 世界に存在する魔素を外から補えば良い!!


暴食者グラトニー

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