第380話 頑張ってね!

 ネフェリル帝国。

 五大国が一角にして五大国の内……と言うより、人類国家の中で唯一、大陸の西側では無く魔の大森林と大山脈を挟んだ東側に存在する国。


 旧魔王が討伐された6年前に建国されたばかりの新興国家であるにも関わらず五大国の一つにその名を連ね。

 その国土は超大国と呼ばれるアルタイル王国よりも広大。

 そして、今回の連合軍に参加していない数カ国の内の一つ。


「ネフェリル帝国、皇帝……」


「そう、彼の名はショウ・アラキ・ネフェリル。

 強大な魔物達が跋扈する大陸東方に唯一存在する人類国家にて、五大国の一つであるネフェリル帝国を統べる皇帝」


 クズ勇者が何やら得意げに説明してるけど……まぁ、そんな事はどうでも良い。

 と言うか、そんなのは知ってるし!


「これまで、殆ど表舞台には出て来ていないけど6年前に帝国を建国し、瞬く間に国を大きくした英傑。

 この若さで帝国を統べる英雄だよ」


「ノアール殿。

 彼の実力はどの程度なのですか?」


 ん? アバズレ聖女の回復魔法で六英雄は勿論、熾天使共が回復してるのは良いとして。

 五大熾天はショウの事を知らない?

 と言う事は、もしかして……


「ふふ! ノアには及ばないと思うけど、私達の見解では六英雄級の実力者だよ!!」


「いや、皇帝ショウ。

 彼は私に匹敵する強者だよ」


「勇者であるノアール殿に匹敵するとは心強い!」


 やっぱり……!


「ふふっ……」


 あのクソ女神、ショウがこっち側だって事を誰にも伝えて無いな。

 まぁ、どうせショウを騙して良いように利用しようとしてた事を知られたくなかったから黙ってるんだろうけど。


 いやまぁ、お陰で面白い事になってるし、別に良いんだけども!

 と言うか! クズ勇者、本当の戦いはこれからだって! イタ過ぎるっ!

 何この茶番? めっちゃウケるんですけどっ!!


「流石の貴女でも、皇帝ショウの介入は想定外だったようね。

 覚悟しなさい! この戦争のせいで苦しんでる人達のためにも! 必ず貴女を倒すっ!!」


 ふんっ、さっき私に手も足も出ずに全員叩きのめされたくせに。

 たかだか魔法でダメージを回復して援軍が来たくらいでよくもまぁここまで強気になれるもんだわ。


 このアバズレ聖女。

 どうせ、皆んなを苦しめる悪魔相手に皆んなを守るために堂々と対峙する私ってカッコいい!

 流石は皆んなに慕われる聖女様! とか、思ってるんだろうなぁ。


 コイツの魂も思考も覗きたくも無いからわからないし、知りたいとも思わないけど。

 まぁ、それはともかくとして……


「皇帝ショウ。

 何でお前が、ここに?」


「数時間前……正確には貴女がここに攻め入る直前に、彼らから帝国に連絡がありまして」


 5人の美しい女性。

 ソル、シャルル、アヤ、ヒュー、ユミルの5人を引き連れてこっちに歩いて来た黒髪の男。

 皇帝ショウがキザっぽく肩をすくめる。


 うん、まぁ本来ならショウ達は今日の遊びに参戦する予定は無かったし。

 何なら今の今まで悪魔王国で私がクズ勇者共を圧倒するのを観てたハズだけど……楽しそうで何よりだわ。


「こうして参上したしだい、と言うわけです」


 うわぁ……ウインクしちゃったよ、ショウのやつ。

 まぁ、確かにショウの容姿は悪く無いと思うし。

 五大国が一角であるネフェリル帝国の皇帝だし。

 大抵の御令嬢は勿論、世の中の女性の多くが今の仕草に色めき立つんだろうけど……


「変態ロリコン」


「えっ!?」


 ふっ、残念ながら私は騙されない。

 種族的な問題もあるけど、まだ子供にしか見えないヒューを始め5人を食い散らかしてると言う事実を。

 ショウの正体が変態にしてロリコンと言う事を私は知っているのだよ。


「ショウ殿、貴殿が私達と共に戦ってくれるなら心強……」


「ショウ皇帝……?」


「一体何を……」


「「「……」」」


 微笑みを浮かべて声をかけたクズ勇者の前を、困惑するアバズレ聖女とクリスを。

 そして何やら悟ったような顔をしてるガスター達3人の前を通り過ぎ。


「なっ!」


「其奴に近づいてはっ!」


「下がってください!!」


「危険ですっ!」


 騒ぎ立てる熾天使共を綺麗にスルーして、私の前まで来たショウとソル達5人が……


「「「「「「「っ!!」」」」」」」


「「「……」」」


 スッと、当然のように跪く。


「勝手ながら、面白い余興になると思って馳せ参じました」


「ん、別にいい」


 寧ろ良くやった、グッジョブ!

 後でお酒を奢ってやろう。


「皆んなは、シルヴィア達と一緒に後ろで、見てるといい」


「承知しました」


 立ち上がったショウが歩き出し、ふと思い出したように足を止めて振り返り……


「そうそう、何か勘違いしてるようだけど。

 勇者殿、キミ達には悪いけど、この通り俺達はレフィー様の味方なんだ。

 だから当然キミ達と一緒にレフィー様と戦うなんて事はあり得ない。

 まぁ、俺達は後ろで観戦してるから、せいぜい頑張ってね!」


 愕然とするクズ勇者共に向かって、それは良い笑顔で言い放った!

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