第367話 齎される報告

「し、失礼いたしますっ!!」


 扉を開け放ち、息を切らして汗をかいた騎士が転がり込んでくる。

 昨日から……いや、ここ最近で何度も見た光景だ。


 嫌な予感がする。

 1週間前から殆ど休めていないし、昨日からは寝る暇すら無かった。

 もうすぐ日が暮れる、また夜襲はあるだろうけど今日はもう大きく戦況が動く事はないと思っていたのに……


「今度はなんだっ!!」


 アナスタシア教国の大聖堂。

 王城で軍議を行なっている私達に各地からの情報を伝えると言う重要な職務を全うしている騎士に怒鳴るのはダメだ。


 まぁ、気持ちはわかるが。

 何せ昨日のたった1日で人類の生息圏のおよそ5分の1ほどを占領され、送り込んだ精鋭部隊。

 特別遊撃軍も壊滅した。


 ハッキリ言って私も聞きたくは無い。

 聞きたくは無いが……私達の肩に人類の命運が掛かっている以上、聞かないわけにはいかない。


「まぁまぁ、怒鳴るのは良くないと思いますよ」


「ノアール陛下……」


「こういう時だからこそ、一致団結しないと!」


「うん、リナの言う通りだよ。

 それで、どうかしたのかな?」


「は! そ、それが実は……」


 この顔は……残念ながら良い報告では無さそうだ。

 言い淀んでいるところを見るに、戦況に大きな何かがあったのは確実か。


 この報告がどこまで正確かはわからないし。

 後で前線にある要所であるミュール辺境伯領の領都ヴァントに向かったガスター達に確認する必要があるね。


「かねてより捜索おりました、今回の戦いに参加していない実力者。

 雷帝アークを始めとするSランクパーティー星屑の剣。

 ヴァリエ騎士王国の守護者、剣聖リーゼ・スパーダ。

 そして、S級クラン白の騎士団を率いる四破の英雄リヒト・アルダールが要所である領都ヴァントに現れました」


「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」


 彼らが領都ヴァントに……彼らの実力は私達、救世の六英雄に迫る程。

 間違いなく連合軍の中でもトップクラスの実力者だ。

 開戦前に彼女の……魔神レフィーの手にかかってしまったかとも思ったけど……


「ふぅ」


「よかったぁ」


 そうか、無事だったか。

 リナも私と同じく彼らの無事に安堵してるようだし、彼らとは私達も面識があるからね。

 本当に無事でよかった。


 ガスターとマリアナの弟子である星屑の剣はもちろん。

 フェリシアと渡り合う剣聖リーゼに、かつて四天王を単独で打ち破ったリヒト。

 彼らがいるのなら領都ヴァントで悪魔王国の進軍を食い止める事も不可能じゃ無い。


 昨日の戦況と報告を聞く限り、どうせ遅かれ早かれ彼女の軍勢は領都ヴァントにまで到達する。

 ならここは、領都ヴァントより前にある都市は一時的に放棄し、領都ヴァントに戦略を集めて敵軍を迎え撃つべき、か。


「そ、その後……敵軍側に付いた星屑の剣、剣聖リーゼ、英雄リヒトを冒険王ガスター様、大賢者マリアナ様、姫騎士フェリシア様の3名が迎え撃つもなす術なく敗北。

 ミュール辺境伯は敵に捕らえられ、領都ヴァントは敵の手に落ちたとの事です」


「敵軍に、付いた……?」


 いや、それ以上にガスター達が敗北して、領都ヴァントが落ちた?


「ふざけるなっ!!

 領都ヴァントが落ちただとっ!? 貴様、虚偽の報告をしているのではあるまいなっ!!」


「い、いえ、そのような事は決してっ!」


「私は騙されんぞっ!

 貴様、さては魔神の手先だな!? それで我らを混乱させようとしているのだっ!!」


「お、お待ちくださいっ!

 私は届いた情報を……」


「静かに」


「「「「「「「「ッ!」」」」」」」」


 こんな所で威圧を使ったのは申し訳ないけど。

 彼が本当に魔神レフィーの手先で捕縛するとしても、これじゃあ話が進まない。


「その情報はどこまで正確な物なのかな?」


「まず、間違い無いかと思われます」


「その根拠は?」


「はっ! この報告はガスター様、マリアナ様、フェリシア様が直接されたものだからです」


 直接? それは一体……


「領都ヴァントより、ミュール辺境伯と共に捕虜となった者を省いた全員が魔神レフィーの手によってこの聖都デサントに強制転移されており。

 城下はかなりの混乱に陥っております」


 咄嗟に窓の外に目を向ける。

 いつの間にか日が沈み、騒然とする聖都はこの戦況を表すように夜の闇に包まれていた。

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