第364話 雷帝

「轟雷」 


「まっ!」




 バチバチッ!! っと、耳をつんざく雷鳴が鳴り響き咄嗟に静止の声をあげたガスターの言葉を掻き消し、天より青白い雷が領都ヴァントへと降り注ぎ……



 パァッッンッ!!



 結界によって弾かれた。




「とまぁ、ご覧の通り領都には我々が結界を展開しているのでご安心を。

 まぁ、出る事もできないんですけど……とにかく、周囲への被害を考えずに死力を尽くしてくださいね」




 都市を消し去る程の一撃を放ちながら、何でもないように淡々と六英雄に注げるその姿に。

 空気に弾ける雷を纏い、圧倒的な覇気を放つアークを前に誰もが一言も発する事すらできずに息を呑む。


 本能がアークから視線を外すなと叫ぶ。

 まるで視線を縫い付けられたかのような錯覚を与えられる圧倒的な重圧。




「行きますよ」




 自然と身体が震えだし、呼吸が乱れ、全身から冷たい汗が吹き出だし……




「っ!?」




 それは、一瞬の出来事。




「……えっ?」




 フェリシアが呆然と呟く。

 愚かな人間共が唖然と目を見開き、何が起こったのかすら認識出来ずに唖然と立ち尽くす。


 フェリシアとマリアナが自身の隣にゆっくりと視線を向ける、そこは今までガスターが居たはずの場所。

 しかし、その場所には雷鳴を纏ったアークが佇み。

 その数メートル前方で、ガスターが血まみれの右腕を抑えながら苦悶に表情を歪めて膝をつく。




「っ……たく、どんなスピードとパワーをしてやがるんだ」




 冷や汗を掻きながらも苦笑いを浮かべて見せるガスターの手には、腕から滴り落ちる鮮血に染まった聖剣ガイア。

 何が起こったのか理解出来ていなかった人間共も、そのガスターの姿を見て遅ればせながらも理解する。


 雷をその身に纏ったアークが自分達の……離れた場所から俯瞰的に、客観的に観ていた自分達の認識速度を凌駕する速度でガスターを攻撃したのだと。




「っ! やってくれるねっ!!」




 そんな声と共に、アークの身体が突如宙に舞い上がる。

 後方で観ていた人間共が誰1人として反応出来ない程の速度で繰り出されたフェリシアの蹴りによって遥か上空まで吹き飛ばされ……




「爆炎の牢獄」




 アークの周囲を等身大程の無数の火球が包囲し……赤を通り越して白くなった火球が空気を震わせる程の大爆発を巻き起こす。


 1つの火球の爆発が他の火球の誘爆を招いて、大気を震わす連鎖爆発がアークを呑み込み。

 堅牢な要塞の城壁をも一撃で容易く破壊するだろう爆発の連続と爆炎が空を真っ赤に染め上げ……



 ────ッ!!



「そんなっ!」


「嘘……」




 愕然と悲痛な叫びを漏らす人間共の視線の先。

 耳をつんざく雷鳴が爆炎を消し飛ばし、当然の如く無傷で姿を表したアークを前に当のマリアナは若干頬を引き攣らせながらもニヤリとほくそ笑む様な笑みを浮かべる。




「破っ!」


「せいっ!!」




 いつの間にかアークの左右に切迫したガスターが叩きつけるように聖剣ガイアを振り下ろし、フェリシアが聖剣ワルキューレによる横薙ぎの一閃を放つ。


 タイミングは完璧。

 マリアナとも息のあった、刀身に研ぎ澄まされた魔力を宿した、最強種と呼ばれる竜種ドラゴンそれも上位竜ですら屠るであろう一撃は確かにアークにも届いた。

 けど……




「「っ!?」」




 ガスターが振るった聖剣ガイアが、フェリシアが放った聖剣ワルキューレの一閃が。

 アークが体表に纏うバチバチッ! っと弾ける雷によって容易く受け止められ、傷一つつけられない。


 腕を、指一本すら動かさず。

 身じろぎ1つせずに自身の攻撃を止められた事実にガスターとフェリシアが唖然と目を見開き……



 パチンッ!



「があっ!」


「うぐっ!?」




 アークが指を打ち鳴らすと同時に発生した雷を纏った衝撃波によって弾き飛ばされた2人が地面に叩きつけられる。




「じゃあ、これはどうかしら?」




 空気が渦巻くような膨大な魔力を立ち上らせたマリアナが妖艶に微笑む。




「天体魔法・ミーティア!!」




 領都ヴァントの上空が。

 空が燃え盛る隕石によって真っ赤に染まる。




「ぐぅ……テメ、マリアナ! 領都ごと吹っ飛ぶぞ!!」


「問題無いわ。

 ねぇ、アーク貴方達の……魔神レフィーの結界なら問題無いでしょう?」


「確かに」


「ふふ、領都を結界で隔離した事が仇となったわね。

 流石の貴方達でもアレをまともに喰らえば無事では済まないわよ」




 ふむ、確かに私レベルならたとえ直撃しても無傷だけどアーク達や他の魔王なら無事では済まないな。

 ただし……




「えぇ、まともに喰らえばの話ですが」




 スッとアークが隕石が迫る頭上を見据えて軽く体の横に手を翳し……




「轟雷の神槍」



 バチィィィッッツ!!



 翳したアークの手の先に10メートルを超える巨大な槍が出現する。

 誰もが黙り込み固唾を飲んで見守る中、空気を圧する轟音と、耳をつんざく雷鳴のみが鳴り響く。


 アークが槍を投擲するかのように手を振るうと同時に雷の巨槍が雷鳴を轟かせながら巨大な隕石へと向かって飛来する。

 閃光と化した雷の巨槍が瞬時に隕石へと到達し……



 ──────ッ!!!



 天を覆い尽くす轟雷が隕石を一瞬で砕いて塵と化す。

 その余波が空気を、大地を焼き焦がし、領都を囲う結界を雷が駆け巡る。




「雷装」




 誰もが唖然とその光景を見つめる中、アークの姿が掻き消え……




「くっ……!」


「がッ!」


「ッ……!!」




 マリアナ、ガスター、フェリシアの3人が吹き飛ぶ。




「なんとか防ぎましたか。

 流石ですね」


「嫌味、かよっ!!」




 ガスターが振り下ろした聖剣ガイアを。




「はぁっ!!」




 フェリシアが放った聖剣ワルキューレの一閃が。




大地の剣グラウンド・グラディウス




 地面から天に向かって伸びる岩の剣が。

 その全てがアークが纏う雷によって容易く受け止められ……




「次は俺の番です」


「「「っ!!」」」




 瞬時に高まったアークの膨大な魔素にガスター達が息を呑む。




「轟け、黒鳴」



 バチィィィッッ!!!



「降り注げ……黒の迅雷」



 漆黒の雷が戦場に降り注いだ。

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