第362話 お前を殺るのは俺じゃ無い
「う、そ、だろ……」
轟音やら、金属音やら、雷鳴やらが鳴り響く中。
安全圏である領都ヴァントの外壁から、さっきまで歓声を上げていたヤツらが。
声も出さずに唖然と目の前の光景を凝視していた愚かな人間共の1人が呆然と呟く。
バチチバチバチィッ!!
耳をつんざく雷鳴が鳴り響いて、青白い閃光が迸る。
ゴウッ!!
灼熱の真っ赤な業火が大地を焼き焦がす。
ドゴォッ!
轟音と共に地面が砕け散り。
目に見えない風の刃が地面を切り裂く。
ギィッンッ!!
刀と剣の打ち合う金属音が響くと同時に幾多もの剣撃が周囲の地面を切り裂いて傷跡を残す。
そして……
「ヒッ! く、来るなっ!!
それ以上この私に近づくなっ!!」
辺り一体に呻き声が充満する中、恐怖に満ちた声で叫ぶのは若き貴公子!
弱冠23歳にして領都ヴァントを始めとする広大だミュール辺境伯領を統治するミュール辺境伯その人っ!!
「ふふっ」
あれだけ騎馬を率いて、全身フル装備で出陣してきて。
さらには、昔はアバズレ聖女の近衛騎士だった事を声高に語ってたくせに……
あはっ! あはっはっはっはっ!!
あ〜あ、腰を抜かしちゃってるじゃん! さっきまでの威勢は何処に行ったのやら。
「来るなって、向かって来たのはお前だろ?」
「っ!」
「だが、お前の選択は間違ってはいない。
まぁ、お前自身は調子に乗って出て来ただけだろうが。
お前が生き残る道はガスター達と共闘して俺達を倒す事のみだったからな」
「な、なんだと……?」
「お前はこの領都ヴァントを含んだミュール辺境伯領の領主だろうが。
ならミュール辺境伯領が落ちれば、捕虜になった責任者であるお前は……わかるな?」
やっぱ無能だなアイツ。
一気に青褪めてるし、リヒトの説明を受けてやっと自分の置かれてた状況を理解したらしい。
「まっ、捕虜になっても確実に処刑されるとは限らないが。
お前は聖女の近衛でレフィー様に暴行を行なったわけだからな。
仮に俺達を倒せたとしても、お前の末路は決まってる」
まぁ、そうだろうね。
私自身はアイツの存在自体を忘れちゃってたけど……隣でゴミを見るみたいな絶対零度の眼差しをしてるシルヴィアを始め、
「尤も、お前らが俺達に勝つなんて事はまず不可能なわけだが」
「ふ、ふざけるなっ!
ふっ、ははは! 忘れているのでは無いだろうな?
我らには救世の六英雄たる冒険王ガスター殿、大賢者マリアナ殿、姫騎士フェリシア殿がついている!!」
「……」
「貴様ら如き悪魔の手に堕ちた者共に、本物の英雄が負けるものかっ!!
見ろっ! 貴様など六英雄の方々が……」
「で? 俺達が誰に負けるって?」
「そんな、あり得ない……き、貴様らっ! 何をしたっ!?
六英雄が貴様ら如きに遅れをとるなんて! 卑劣な悪魔の手下共がっ!! 何か卑怯な手を使ったに決まっ──!?」
「いい加減煩いぞ。
喚くなクズ野郎が」
おぉ〜! 今のシーンはカッコ良かった!!
リヒトの覇気による威圧を受けて息を呑むミュール辺境伯。
あの雑魚相手に威圧して殺さないように、ちゃんとコントロールしてるし。
うんうん、この絵面もさる事ながら流石はリヒトだな。
「ヒッ……な、何を」
無言で尻餅をついた状態のミュール辺境伯を見下すリヒトの拳に魔力が宿る。
「何をって、目の前に敵軍の大将がいるんだ。
する事なんざ1つだろ?」
「ッ! わ、私が誰なのかわかっているのかっ!?
私は超大国アルタイル王国がミュール辺境伯だぞ!」
「だからどうした」
腰を抜かして無様に尻餅をついた状態で必死にリヒトから遠ざかろうとするミュール辺境伯に向かって一歩、また一歩とゆっくりとリヒトが歩みを進める!
「そ、そうだ! 金でも、女でも、地位でも! お前の欲しいものは何でも用意しよう!!
だから私の配下、いや我々の味方に……」
「……」
無言でリヒトが拳を振り上げ……
「や、やめっ──!!」
地面が砕け散って、できあがったクレーターの前でグルンッと目を回して、ピクピク痙攣したミュール辺境伯。
あっ、ぷぷっ! 失禁しながら気絶しちゃったみたいだな。
「残念だが、お前を殺るのは俺じゃ無い」
気絶して倒れ込んだミュール辺境伯にリヒトがそう吐き捨てた時……リヒトの左右から轟音が鳴り響いて、外壁にいる人間共がどよめいた。
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