第360話 師弟対決 その2

 炎域。

 これは、以前ターニャが私に対して使った柱のように立ち昇って、内部の全てを燃やし尽くす火炎領域陣フレアサークルとは違う。


 この魔法は、炎を司る大精霊炎霊姫たるリリィーの使う権能を魔法という形に落とし込んだもの。

 文字通り指定範囲内を術者の意思による炎が支配する灼熱の空間、炎の空間へと作り替える。


 まぁ、炎の空間といっても火炎領域陣フレアサークルみたいに内部全てが炎に包まれるわけじゃ無い。

 無差別に範囲内を燃やし尽くす火炎領域陣に対して、この炎域では術者の意思が肝となる!


 つまりっ!!

 さっきまで皆んなみんなの頭上を埋め尽くしてた氷の剣を排除しようとターニャが思えば氷の剣は燃え尽き。

 炎の結界みたいに周囲から隔離しようと思えば、瞬時に炎の結界ができあがるのだ!!


『結構エグい魔法だよね』


「ふふん!」


 当然! 何せ私とリリィーが一緒に考えて、5分……げふん! げふんっ! 時間と手間をかけて完成させた大魔法だからな!!

 まぁその分、範囲内を自身の魔素で支配下に置かないとダメだから消費魔力は大きいけど。


 多分、普通の人間なら発動させる事すら不可能。

 宮廷魔法使いとかのレベルになってやっと、数メートル四方程度の範囲なら数秒は展開できるって程度。

 が! 今のターニャならばこんな範囲で! 普通に展開できてしまうっ!!


 ぶっちゃけ、炎域を使えば領都ヴァントを落とす事も、灰にする事も簡単にできる。

 まぁ、それでも消耗が激しいのは事実だし。


 何よりターニャは……と言うか星屑の剣の皆んな始め、リーゼもリヒトも、私の人間共の目に見える形でガスター達を叩き潰すって計画を理解してくれてるからな。




「炎域、解除」




 ほら! 私の意を汲んで、すぐに炎域を解除した!!

 ターニャはシルヴィアとか七魔公を始めとする悪魔達と同じで何故か私を崇拝してる節があるけど……ツンデレだから素直になれないだけで良い子なのだっ!!


『ベタ褒めだね』


 むふふっ、ターニャは面白いからな。

 ちょっとアークの事で揶揄うと、すぐに顔を真っ赤にさせて、いつもの強気な態度からは想像もできない弱々しい感じになるのだ!


 この前なんて夜に私の部屋に呼んで女子会を開けば緊張でガチガチだし。

 アークの話題を張ればそれはもう顔は真っ赤!


 更には冒険者としての活動中のアークとの様子とかをアナとマナに暴露されて顔から湯気が出るんじゃって思う程に茹で上がって、涙目になってか細い声でやめてぇって!!


『可哀想に。

 タチの悪い悪魔ちゃんに目をつけられちゃったか』


 し、失礼なヤツめ。

 まぁ、そんなわけでターニャはお気に入りの1人なのだよ。




「ふふっ、成長したわね。

 確かに今の魔法は私も知らない高度な魔法だったけれど……何故、解除したのかしら?

 負担が大きいくて長時間は使え無いんじゃない?」


「流石はお師匠様、確かに今の魔法……炎域は消費魔力が大きいわ。

 けど、解除したのは別の理由」


「別の?」


「えぇ、腕を上げたのはアークだけじゃ無いのよ!

 アナ! マナ!」


「わかってる!」


「了解っ!」




 ターニャの声を受けてアナとマナが返事を返し……



 ギィッン!!



「おいおい、マジかよ」




 背後に回り込んで横一閃に振われたマナの刀を受け止めたガスターが苦笑いを溢す。

 そう、アナじゃ無くての。



「どうなってやがるっ!」




 マナの刀を弾いてガスターが距離を取るために背後に飛び退き……




「驚くのは早いですよ、ガスター先生!」




 その懐にマナが踏み込んで切迫する。




「っ!」




 再び振われた刀に対してガスターも聖剣ガイアを振るい……マナの刀の腹を滑って受け流された聖剣ガイアが轟音と共に地面を割る。

 地面に叩きつけられた聖剣ガイアを踏んで押し止めるマナが斜め下からの斬り返し……




「らっ!」


「っと」




 瞬時に聖剣から手を離し放たれたガスターの蹴りを刀の柄の頭で受けたマナが後方に飛んで軽やかに着地し……



 ピシッ!



「っ! ウソでしょ!!」




 風を纏わせたアナの剣による突きを受けたマリアナの結界に亀裂が走りって砕け散る。




「風刃っ!」




 次いで振われたアナの剣の刀身から放たれた収束した風の刃がマリアナへと迫り……マリアナの姿が掻き消える。




「おい、マリアナ。

 これは流石にちょっとヤバいかもしれねぇぞ」


「えぇ、これは予想以上ね」




 頬から血を流すガスターが苦笑いを浮かべてさっき手放した聖剣ガイアを握り直し。

 ガスターの隣に転移したマリアナも切り裂かれた自身のローブの袖を見て苦笑いを浮かべる。




「アナはまだしも、マナは後方支援だったと思うんだが?」


「マナだけじゃ無いわ。

 アナもターニャも、そしてアーク貴方も本当にこの短期間で何があったのかしら?」


「あはは、まぁ色々とありまして」


「まぁ、マイクだけは以前と変わらないようで安心したぞ」


「酷い言い草しますね、先生。

 俺だって他の4人と一緒にパワーアップしてるんですよ?」


「勘弁してくれ」




 ふふん! 私達によって鍛えられた今のアーク達、星屑の剣の実力を思い知るが良い!!

 そして、目の前で救世の六英雄達の敗北を目の当たりにして絶望しろっ!!




「じゃあ、そろそろ……」



 パリッ──



「互いに小手調はやめにして、本気にやり合うとしましょう」



 アークが身体の周囲に弾けて紫電する電気を纏い……戦場の空に雷鳴が鳴り響く。




「ちったぁ手加減してくれよ?」


「何冗談言ってるんですか」


「アークの言う通りよ。

 そんなやる気満々な顔をして何を言ってるのかしら? これだから野蛮な戦闘狂は……」


「クックック、なんとでも言え。

 弟子の成長は嬉しいもんだろ?」


「はぁ……弟子と全力で戦いたくなんて無かったのだけど。

 甘い事は言ってられなさそうだし、仕方ないわね」


「行くぞっ!」



 ニヤリと戦意に満ちた笑みを浮かべたガスターの姿が掻き消え、地面が爆ぜた。

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