第324話 蹂躙

「っ……!」



 ノワールの姿を一瞬で見失い。

 鳴り響いた悲鳴のもとに駆け付けたリヒト達、白の騎士団が言葉を失って息を呑む。



「貴様……」


「何と酷い……」


「よくもこの様な事を!」


「貴様には情が無いのかっ!?」



 熾天使共が眉を顰めて、悲痛そうに顔を歪めてノワールを睨む。



「情が無いのか、ですか?」



 ピチャッ



 激昂して怒鳴る熾天使こと、ヨハンの言葉にコテンんと妖艶な仕草でノワールが首を傾げ。

 真っ赤な水滴が、地面にできた真っ赤な水溜りに落ちて飛び散る。



「ゴフッ……あぁぁ……っ!!」


「うふふ、貴方達は私を誰だと思っているのですか?」



 両手から真っ赤な血を滴らせながら。

 血溜まりに沈んで、声にならない絶叫をあげて地面に転がる騎士を一瞥する事なく……



「ッ──っ!!!」



 並の存在は勿論。

 Sランク冒険者でありリヒトですら何とか捉えられる程の速度で振われたノワールの手刀によって、騎士の左腕が血を撒き散らしながら宙を舞う!



「っ……!」


「「「「なっ!」」」」



 その光景にリヒト達と、熾天使共の顔が歪む。



「私はレフィー様にお仕えする悪魔ですよ?」



 ヒュ〜! ノワール、カッコいいっ!!

 これぞ、まさに悪魔の所業!

 魔王にして魔神たる私の配下に! 大悪魔に相応しい無慈悲な姿!!


 しかし、血走った目を見開いて、声にならない絶叫をあげてるあの騎士……あ〜らら、可哀想に。

 ノワールが右手に待ってる右腕は切断されたんじゃ無くて捻じ切られてるな。


 ノワールなら一滴も返り血を浴びる事なく腕を切断したり、捻じ切ったりする事は普通にできる。

 なのに両手から血を滴らせてるって事は、時間をかけてゆっくりと捻じ切られたって事だし。


 多分リヒト達が駆け付けるまでの暇つぶしにされたんだろうけど……喉も潰されて声も出せないみたいだし。

 まぁノワールのオモチャにされたって事はあの騎士も冤罪で殺された私の事を嘲笑ってたヤツって事だけど。

 うん、流石にちょっと哀れだわ。



「しかし、情が無いのかとは不思議な事をおっしゃいますね?」


「何だと……」


「うふふ、かつて何の罪のないレフィー様への拷問を女神と共に黙認していた羽虫の分際が頭に乗るなと言っているのです。

 やはり上に立つものが愚かな愚物ならば下に付き従う者共も愚者なのですね」


「っ! 貴様っがはっ!?」



 ノワールの蹴りが熾天使ヨハンの鳩尾に直撃っ!

 ぷぷっ、マヌケな顔で吹っ飛ばされてやんの!



「煩わしいので一々騒がないでいただけますか?」


「「「「っ!!」」」」



 ヨハンが蹴り飛ばされて、背後から聞こえてきたノワールの声に他の面々が一斉に背後を振り向く……が、既にそこにノワールの姿は無く。



「ッ──ぁっっ!!」


「うふふっ」



 先程までノワールが立っていた場所に血溜まりに立つノワールが騎士の首を片手で締め上げて妖艶な笑みを浮かべ……



「待っ──」



 前方に向き直ってその攻撃を目にしたリヒトが静止の声をあげようとしたその瞬間。

 パンっ! っと風船みたいに騎士の全身が肉片すら無く真っ赤な血になって弾け飛んだ。



「では、次に行きましょうか」



 その余りの惨状に、その場にいた人間共に熾天使。

 全ての者が絶句する中、血溜まりの中に佇むノワールがニッコリと微笑んで……その姿が掻き消えた。


「ふむふむ」


 流石はノワール。

 まぁ当然だけどリヒト達、白の騎士団と熾天使共を歯牙にも掛けずに翻弄しつつ人間共の殺戮を始めるとは。

 とりあえず公都はこれで問題無いとして、他の皆んなの方は……


「ふふふっ!」



「キャァぁぁっ!!」



 悲鳴が!



「ぎゃぁっ!」



 絶叫が!



「いやぁぁぁっ!!」



 人間共の泣き叫ぶ声が公都中で!

 アレス公国中で鳴り響く!!


「ふふっ、ふふふ、あはははっ!」


 もっと泣き叫べ!

 恐怖に狂えっ!

 必死になって逃げ惑え!


「愚かな人間共に絶望を!」

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