第322話 魂の根源からの絶望を!

「しかし、また新手に邪魔されても煩わしいですね。

 探知サーチ



 妖艶な笑みを浮かべるノワールから黒い魔力が立ち上り……何事も無くふっと魔力が消える。

 ように殆どのヤツらには見えただろうな。



「あら? どうやらこの公都で私と遊べるのは貴方達だけのようですね。

 少々肩透かしですが、まぁ良いでしょう」


「一体何を……」


「貴方達は……確か、白の騎士団でしたか?」


「っ……!」


「そうだ。

 俺達はお前がさっき殺してくれたバカが所属していたS級クラン・白の騎士団だ」



 ノワールに微笑みかけられて押し黙ってしまった団員。

 多分、新人だろうけど蛇に睨まれた蛙状態になってしまった彼の代わりにそう告げるのは、白の騎士団を率いて油断なくノワールを見据える男!


 彼こそがS級クラン・白の騎士団を纏め上げるクランマスターであるリヒト・アルダールっ!!

 貴族の生まれながら、家を出て若干25歳で今の地位にまで上り詰めた存在っ!


 うんうん、リヒトは今ノワールが何をしたのかをちゃんと理解してるみたいだし。

 流石は白の騎士団のクランマスターだわ!



「ふふふ、そう警戒しなくても大丈夫ですよ。

 今のは魔力を薄い膜にして公都全域に伸ばして、範囲内に存在する全ての魔力を感知しただけです。

 その結果、多少なりとも私と遊べそうなのが貴方達しかいなかったのは残念ですが……特に害は無いので気にしなくても構いませんよ」


「公都、全域に……」


「しかし、その方を始め数名は、私と遊ぶ資格は無いようですね」


「ったく、言ってくれるな。

 ここにいるのは白の騎士団の中でも精鋭中の精鋭。

 コイツも新人とは言え、実力は確かなAランク冒険者なんだがな」



 ノワールの評価に苦笑いを浮かべて肩をすくめたリヒトが白い柄の長剣を流れるような動作で引き抜き……


「おぉ〜」


 露になった美しい白い刀身。

 アレが有名なリヒトの愛剣、白剣ニウェウス!!



「しかし……油断したつもりは無かったが、これでもまだ魔神の持つ戦力を過小評価していたようだな。

 確かにお前を相手取るには、コイツじゃあまだ力不足だ」


「っ……」


「恥じる事はないぞ。

 アイツがそれだけヤバイ相手だって事だ。

 この広大な公都に一瞬で魔力巡らせて、全域を感知するデタラメな事を簡単にする規格外なヤツだ。

 ハッキリ言って、アイツは俺が大戦時に討伐した四天王よりも強い」


「四天王……あぁ、確か旧魔王の配下でしたか。

 うふふ、あのような神の操り人形共如きと一緒にされては困ります」


「まさかお前みたいな規格外なヤツが出てくるとはな……だが、こんなに悠長に話してて良かったのか?」



 リヒトがニヤリと戦意に満ちた笑みを浮かべる。



「私は貴様を侮っていたようです」


「まさか、ヨハンをあっさりと下す程とは」


「しかし、1人になるとは愚かな。

 まさか我々をたった1人で相手どれるとでも?」


「しかし、ヤツが危険なのは十分に理解しました。

 この場で確実に滅する必要がありますね」



 口々にそう言いながらノワールの背後を取り囲むようにして浮かぶ4人の天使。



「せっかく倒したヨハン殿もフィリー殿の魔法で復活した。

 これで戦況は振り出しに戻ったわけだ」


「構いませんよ。

 そのためにわざわざ時間を作って差し上げたのですから」


「何だと?」


「うふふ! レフィー様を貶め、苦しめ、殺した女神の尖兵が。

 レフィー様を侮辱した羽虫が……」



 狂ったような。

 それでいて誰もが見入ってしまう程に妖艶で……



「一度死ぬ程度で傷みから! 苦しみから!

 絶望から解放されるとでも思っていたのですか?」


「「「「「っ!!」」」」」



 凄惨な笑みを浮かべるノワールの濃密な殺気と怒気に熾天使とリヒトを始めとする白の騎士団の面々が息を呑む。



「うふふっ、愚かで醜く脆弱な人間共。

 お前達の淡い希望が圧倒され、地に倒れ伏す様を見ながらせいぜい必死に無様に私から逃げ惑え。

 私に立ち向かう者、背を向けて逃げる者……」



 両手を広げて、その整った美貌に凄惨な狂ったような満面の笑みを浮かべながらノワールが音も無く公都マルスの地面に降り立ち……



「この公都にいる全ての者にココロの底からの恐怖を。

 魂の根源からの絶望を味合わせて差し上げましょう!」



 熾天使共、白の騎士団ごと周囲一帯が吹き飛んだ。

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