第320話 舞い降りし者たち

「……ぇ」


 パタパタと雨のように真っ赤な血が降り注ぎ、血肉の雨を浴びた若い女の人が呆然と呟きを漏らして自身の顔に付いた血を手で拭い……


「ッ、イヤァァっ!!」


 甲高い悲鳴を上げる。

 その恐怖に塗れた悲鳴によって呆然と、唖然と声を発する事もなく息を呑んで成り行きを見守っていた人間共が現実に引き戻されて……


「あはっ!」


 大パニックっ!!

 公都のそこら中で悲鳴が! 恐怖に錯乱した声が鳴り響いて、さっきまでの静けさが嘘のような大混乱っ!



「ッ!」


「そ、そんなバカな……」


「Sランク冒険者が、あんなにあっさりと……」



 ん? なるほど、さっきノワールを攻撃した自殺志願者はSランク冒険者だったのか。

 う〜ん、事前に調べてた情報では公都マルスを拠点にしてる冒険者の最高位はAランクで、Sランク冒険者はいなかったと思うんだけどなぁ。


 まぁ、どうでも良いけど。

 そんな事より……あの程度じゃあ一般人は大パニックに陥っても、普段から血を見てる冒険者とか兵士やら騎士やらはそこまでパニックにはならないか。


 それでもSランク冒険者があんなにあっさりと殺されたんだから、もうちょっとパニックに陥っても良いと思うんだけどなぁ。

 一応殆どのヤツらは恐怖の感情は抱いてはいるようだけど……


 一般人達は少しでもノワール達から離れようして我先にと必死に逃げ惑ってるけど、冒険者とか騎士とかは比較的落ち着いてるし。

 かと言って油断してるわけでも、ノワール達を甘く見てるわけでも無くてしっかりと警戒してる。


「ふむ」


 この場合、考えられるのは……



「ふふっ、どうやら皆様は我々が来る事を予期していたようですね」



 ノワールの言う通り、アレス公国に悪魔王国私達が攻めてくる事を予め知っていたか。

 まっ、一般人を非難させて無いから正確な日時までは知らなかったみたいだけど。


 問題は何で私達がアレス公国を迫る事を事前に知っていたのか。

 天界にいるクソ女神にはバレないように情報管理はしっかりしてたし、誰かが情報を漏洩させたとは考えにくい。


 そもそも、情報漏洩なんてやらかした時点で情報面の管理をしてるシルヴィアにバレるし。

 かと言って、ただの推測ってのも可能性としては限りなく低い。


 推測として周知されてただけなら、あそこまで落ち着いていて動揺が少ないのは不自然だし。

 何の根拠もない推測でSランク冒険者が動く事は無いだろうし。


「ふ〜ん」


 でもSランク冒険者のあの男が実際に待ち構えてたって事は、人間共には私達が近いうちに攻めて来るって確証があった。

 この場合考えられるのは……恐らく敵の能力かな?


 多分、未来予知みたいな権能を持ってるヤツが敵側にいるんだろうな。

 まぁ、正確な日時まではわかって無かったみたいだし、精度は完璧じゃ無いみたいだけど。



「無粋な羽虫共の……」



 ノワールの言葉を遮り、雲を突き抜けて空から飛来した巨大な光の槍が天を一瞬白く染め上げる。



「落ち着くのです。

 地上に住む小さき者達よ」



 白い光が晴れて、突然の事に多くの人間共が見上げる空に舞い降りたのは純白の翼を広げた4人の天使。

 ふんっ、えらく派手なご登場な事で。


 おかげで熾天使共の姿を見た人間共が歓声を上げてるじゃんか。

 ついさっきまで恐怖に顔を歪めて絶望を抱きながら逃げ惑ってたのに……



「怯える事はありません、貴方達には女神アナスタシア様のご加護があります。

 そして……」


「「「「「「「「「──っ!!」」」」」」」」」


「貴方達、人間はまだ悪しき者達に敗北してはいません」



 さっきの自殺志願者のバカが白い鎧だったから出てくるかなぁとは思ってたけど、やっぱりコイツらも来てたか。



「ったく、あのバカめ。

 先走りやがって……」



 再び大きなどよめきと歓声が巻き起こる公都の一角。

 顔を歓喜に染める人間共の視線の先、冒険者ギルド公都マルス支部から真っ直ぐに伸びる大通りを堂々と歩く白い鎧に身を包んだ集団。


 私が公爵令嬢だった時からその名を大陸中に知らしめてた者達。

 所属するのは全員がBランク以上の高位冒険者で、多数のAランク冒険者に、クランマスターを始め数名のSランク冒険者を擁するS級クラン・白の騎士団。


「おぉ〜!!」


 や、やばい!

 公爵令嬢だったから表立っては言えなかったけど、昔から自由に冒険をする冒険者に憧れてたミーハーだし! これはちょっと興奮するっ!!



「さぁ! 地上に住う人々よ!!

 我らと力を合わせて悪しき者達を打ち破るのですっ!!」



 天使共お前らがいなかったら最高だったのに……

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