第302話 勘違いしてんのかよっ!

「っ! うぉぉっ!!」


「はぁっ!!」


「せぃっ!!」



 仲間を吹き飛ばされて唖然としていた残り3人の騎士が剣を引き抜き、声を張り上げながら一斉にセラフィルとアリシアに襲い掛かる。


 宣戦布告とか色々とかしちゃったとは言え、王子とその婚約者の公爵令嬢に抜き身の剣を思いっきり振り下ろしたのはどうかと思わなくも無いけど……

 その意気や良し、だがしか〜しっ!



「「「っ!!」」」



 さっきの2人とは違って一切の侮りは無く、本気で振り下ろされた剣は……セラフィルとアリシアに到達する事なくその手前で停止する。


 驚愕に目を見開き、息を呑む騎士達の視線の先に広がるのは変わらず余裕たっぷりの微笑みを浮かべる2人と。

 その2人の前で騎士達の剣を受け止める、全てを優しく包み込むような淡い光とバチバチと音を立てながら紫電する青白い光。



「無駄です」


「残念ながら、貴方達では私達には敵いませんよ」



 ぬはっはっはっ! どうだ、驚いたっ!?

 光の大天使の性質をもつ熾天魔であるセラフィルの光。

 雷の大精霊の性質をもつ雷精姫であるアリシアの雷。

 それらは2人に降り注ぐ攻撃をオートで防ぐ事も、さらには迎撃する事すら可能なのだ!!


 あの会議の場で警護と警備を任されてるあの騎士達はアルタイル王国に存在する騎士達の中でもエリート揃いの近衛騎士。

 そんなヤツらの攻撃を一歩も動く事も、指一本動かす事なく防ぐとか……いいぞ! 2人ともカッコいいっ!!



「申し訳ありませんが、騎士の皆様はここで見ていてください」


「何を……」



 バチィッ!



「ぐっ!」


「なぁっ!?」


「がぁ……!!」



 アリシアが自身の攻撃を微動だにする事なく防がれ、目を見開く騎士達に向かってニコッと柔らかく微笑んだ瞬間。

 けたたましい雷鳴と共に一瞬小さな青白い閃光が瞬き、呻き声を上げながら3人の近衛騎士達が綺麗に膝から崩れ落ちる。



「アリシア嬢、何を……」


「ご安心下さい。

 死んではいませんし、動けなくしただけなので意識もありますよ」



 その場にいる大人達全員の意思を代弁する困惑したクズ勇者の問いに華やぐような笑みで持って答えるアリシア!

 そう言う事を聞いてるわけじゃないんだけど……ふふっ、アレはわかってて態とやってるな。


『ほんの1週間前までは王子の婚約者に相応しいお淑やかな淑女然としていたのに……すっかり悪魔ちゃんに毒されてすっかり小悪魔ちゃんになってるね』


 し、失礼な事を言うな!

 誰も毒してなんか無いから!!

 そりゃまぁ、私の眷属になる過程で悪魔の因子を得た事もちょっとは影響があるかもしれないけど……わ、私は何も悪く無い!!


 そ、そもそも! 悪魔とは自身の本能と欲望に忠実な種族!

 つまり、例え悪魔の因子を得てそれの影響を受けようとも、それはその人自身の本当の姿なのだ!


『うん、それはわかってるよ』


 理解できたようで何より。

 これで邪神も、私がアリーになんの悪影響も与えてないって事が……


『私が言ってるのはそうじゃなくて。

 悪魔ちゃんの元にいた1週間があの子に影響を……』


 ええぃっ! 煩いぞ!!

 さっきから細かい事をグチグチと……そりゃあシルヴィア達との訓練と言う名の地獄のブートキャンプを経験すればお淑やかな淑女なんてやってられないわ!!


 けど、アリー本人が気にして無いんだから別にそれでいいじゃん!!

 はい! この話は終わりっ!!



「さて、父上……いえ、国王陛下。

 これで私達がお遊びなどでは無く本気だと言う事が理解していただけたと思います」


「……」


「フィル……」



 流石に眉を顰めて真剣な面持ちでセラフィルとアリシアを見据えるクズ勇者ノアールと、悲しげに涙ながらにセラフィルを呼ぶアバズレ聖女リナ。

 が、今更そんな涙にフィルが諭されるハズも無く。



「はぁ……貴方達は国王と王妃に相応しく無い。

 自らの犯した罪を認め、王座を降りて下さい」



 クズ勇者により縋って啜り泣くアバズレ聖女を冷めた……と言うよりも絶対零度の冷たい視線で見据えて淡々と言い放つ。



「フィル、お前が私達と本気で戦うつもりだというのはわかった。

 だが、悪いがありもしない罪で国王たる私がおいそれと簡単に退位するわけにはいかない」



 ありもしない罪ねぇ。


「ふん」


 冤罪で私を追放どころか家族諸共、私を庇ってくれた人達事を皆殺しにしてくれたヤツがよく言うわ。



「それにだ、フィル、アリシア嬢。

 その姿が何なのかはわからないが……君達は本気で私達に勝てると思っているのか?」


「「……」」



 セラフィルとアリシアは黙りを決め込んでるけど……私の見立てではぶっちゃけ普通に勝てると思う。

 しかし、あの脳内お花畑のバカもやぁっと2人がお遊びじゃ無くて、覚悟を決めた本気だって理解できたか。



「安心すると良い……っと言っても今の状態じゃあ本当の2人には聞こえていないかな?

 まぁ、何にせよ……すぐに私達が魔王に操られている君達を助けてあげるよ」



 って! 結局、勘違いしてんのかよっ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る