第297話 帰還
「うぅっ……フィル、どこに行っちゃったの……?」
「リナ……っ何としてでもフィルとアリシア嬢を探し出せ!!」
超大国アルタイル王国の王城にある、絢爛な会議室にて聖女にして王妃であるリナが目元を真っ赤に腫らして涙を流し。
そんなリナを痛々しげに見つめて慰める、勇者にして国王であるノアールの怒声が鳴り響く。
「陛下、少し落ち着いて下さい」
そんな国王を冷静に、確かな苛立ちと怒りを宿した声で諌めるは6年前にその地位に就いたアルタイル王国の現宰相。
第一王子セラフィルの婚約者であるアリシアの父親であるヘルヴィール公爵。
しかし国王を諌めるヘルヴィール公爵の怒りの篭った、万人を黙らせるような迫力のある言葉も国王にして勇者たるノアールには通用しない。
「これが落ち着いていられるか!
こうなったら、やっぱり俺が直接乗り込んで……」
「ダメっ!!」
「なりませんっ!」
ガタッ! っと椅子を倒す勢いで立ち上がったノアールにリナとヘルヴィール公爵が同時に声を荒げる。
「陛下、セラフィル殿下と我が娘が向かった先は獣王……いえ、今や六魔王が
もし六英雄筆頭たる陛下が彼の者の城に乗り込まれましたら、攻め入ったと判断され両国間での戦争に発展する可能性もあるのです」
「そうよ! そんな危険な事……ノアまで私の側からいなくならないで……」
「っ! リナ……」
涙ながらに訴えるリナを優しく抱きしめ、宰相であるヘルヴィール公爵に。
この一幕を静観していた、会議に参加している重鎮達に鋭い視線を流し……
「ふぅ……フィルとアリシア嬢が行方不明になってもう1週間」
淡々と。
「現状判明しているのは、獣王国ビスバロニスに向かったと言う事だけ」
しかしながら超大国の王に、六英雄の筆頭である勇者の名に相応しい覇気を纏って。
「獣王国には竜騎士団を使って使節団を送っております。
本日到着する予定ですので、今日中には何らかの情報が齎されるかと」
「そうか。
何故2人が獣王国に向かうのを止めなかったのか、と言う事は今は問わない。
けど……明日になっても何の進展もないようなら、私が……俺が獣王国に直接出向く」
「陛下っ!」
「これは決定事項だ、皆んな良いね?」
有無を言わせない言葉で告げる。
とまぁ、何ともシリアスな空気を醸し出してるところ悪いんだけど……
「し、失礼いたしますっ!!」
ほら来た。
「何事だっ!!」
「今が御前会議の最中だと知っての事かっ!?」
今の今まで、クズ勇者の覇気にビビって黙り込んでた狸ジジイ共がイキイキとしてるわ!
「そうだ……」
「構わない」
「へ、陛下……」
「も、申し訳ありません。
出過ぎた真似を……」
ぷぷっ! 一瞬で萎縮しちゃってるじゃん!!
何やら先に声を荒げた狸ジジイ2人に追随しようとしたヤツも黙り込んじゃったし、いやぁ凄まじくダサいのを見てしまった!!
今度アランとショウに見せてやろっと!
「それで、どうしたのかな?」
「は、はっ! つい先程、行方不明になられていたセラフィル第一王子殿下ならびにヘルヴィール公爵令嬢がご帰還なされました!!」
「っ!! それは……」
「それは本当なのっ!?」
ノアールの声を遮ってリナが叫ぶ!
「は、はい」
「よ、よかったぁ……はっ! それで怪我はっ? フィルは、2人は無事なのっ!?」
「リナ、落ち着いて」
「ご、ごめん、つい……」
「それで、2人は無事なのか?」
「はっ! お2人とも……」
「ご心配なく。
私達はこの通り、無事ですよ」
ノアールの問いに答えていた騎士の言葉を遮って、幼い声音ながらも、その幼さを感じさせない口調の言葉が鳴り響く。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。
ただ今戻りました」
「身勝手な行動を取り、ご迷惑をお掛けいたしました」
騎士の後ろ。
開け放たれた扉から姿を現したセラフィルとアリシアがスッと頭を下げる。
「っ! フィルっ! アリーちゃんっ!!
本当に、本当に無事でよかったぁ……」
「ふぅ……聞きたい事も沢山あるし、お説教もしないとだけど……まずは、2人が無事で安心したよ」
「そ、そうだ! 2人とも何処か痛いところはない?
もし痛いところがあるのなら私が治してあげる!!」
「いえ、ご心配なく。
既に治してもらったので」
「えっ?」
その通り!!
この1週間、2人は我が
何故かズタボロになってた2人の傷は既に見送りの時にこの私が全回復させてやったのだよ!!
「そんな事よりも」
「フィル?」
「どうしたの?」
「父上、母上。
いえ、この場にいる皆様に私とアリーからお話があります」
盛り上がって来た〜っ!
ふふふ! ねぇ邪神、今の見た? あの2人のとても6歳児とは思えない堂々とした態度!!
ふふんっ、流石は私の眷属だわ。
『いや、悪魔ちゃんの眷属になる前からあんな感じだったけど……』
さぁ! セラフィル、アリシア! ビシッとカッコよく決めるのだっ!!
『自分から聞いておいて、サラッと無視するね。
けど、何でまた勇者達の様子を覗き見しながら実況みたいな事をしてたの?』
ふっ、そんなの決まってるじゃん。
2人の勇姿を撮影して後で見せてあげるのだっ!!
むふふっ! さぁ2人とも、そのバカどもにビシッと言ってやれ!!
『……へぇ、そうなんだ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます