第203話 後悔しろ!

「う、嘘よ……そんなの嘘に決まってるわっ!!」


 あ〜あ、魔王を討伐し、巨悪を殺した英雄!

 救世の六英雄と呼び称えられし、天下の大賢者ともあろう者が無様に取り乱しちゃって!!


「覚悟しなさい!」


「ふふっ……」


 こっちをキッと睨みつけながら、杖を翳すマリアナから魔力が天へと立ち昇り、迸って紫電する。

 膨大な魔力によって大気が軋む、大地に亀裂が走って悲鳴をあげる。

 空間が地鳴りを上げながら揺れ動く。


 うんうん、流石は大賢者。

 異世界召喚を行って聖女って言う裏技チートを使ったとは言え、仮にも旧魔王と対峙して打ち倒してるわけだし。


 マリアナの実力は本物。

 人類最強の一角として、世間から救世の六英雄とかご大層な名前で呼び称えられて調子に乗ってるだけはある!

 まぁ、所詮は人間の中ではだけど。


「天体魔法! 流星群メテオシャワー!!」


 それに……


「ぷっ、あははっ!」


 やばい! コレはやばいわっ!

 あぁ、お腹痛い。

 無駄に魔力を発して、ビシッと杖を翳してるのに何も起こらないとか、もう滑稽過ぎて……


「ぷふっ、ふふふ……」


 いやぁ、ツボったわ。

 コレは後で記録映像をアラン達にも見せてあげないと!


「ど、どうして……!

 どうして魔法が発動しないの!?」


「ふふふっ、現実逃避?」


「っ! 小娘の分際で……黙りなさい! 何様のつもりなのっ!?」


 ふむ、小娘。

 誰が? この私が??

 あ、あはは…… お前こそ取りに足らないザコの分際で言ってくれるじゃねぇかっ!!


 もう、許さない。

 いやまぁ、最初からマリアナは復讐対象筆頭の1人だけども、そんな事は関係ない!

 この私に向かって、こ…小娘なんて言った罪の重さを思い知れ!!


「ふふふ……」


 そもそもだよ?

 お前も、ガスターも図が高い!

 物理的に私の方が身長が低いとはいえ、この私を見下ろすなんて許されると思ってんの??


「がぁっ!?」


「小娘で悪かったな!」


 ガスターの時と同様にマリアナの背後に回って私を見下ろす無礼な頭を地面に踏みつける!!

 ちょっと力が余ってマリアナの頭を踏み付けた時に地面が陥没して割れて、何かマリアナの頭蓋がミシミシいってるけど……


 うんうん、我ながら良い仕事をしたわ!!

 さぁ跪け! 平伏せ! みっともなく地面に這いつくばるが良い!!

 だってガスターとかマリアナとか風情がこの私を見下ろすなんて許され無いし!


『うわぁ……理不尽だ』


 頭を思いっきり地面に踏みつけながらも、マリアナの頭が潰れないように強化してあげるとか、我ながら私って慈悲深くて優しいわ〜!


「っ、どき、なさいっ!」


「煩い」


「ぁっ!」


 地面に踏みつけられてても、まだまだ私を睨んで文句を言う元気はあるみたいだし。

 どうせ回復させてあげるんだから……ちょっとくらい、ぐりぐり踏み付けても……この憎たらしい整った顔を蹴っても良いよね?


「ふふ」


「ぐっ!」


「この!」


「がっ!?」


 この! この!!

 ふふふ、ヤバイ。

 ちょっとこれ、楽しいかも……


「あはっ!」


「ぎっ! も、もう……」


「あはは!」


「やべ、ぎゃっ!?」


 あ〜あ、せっかくの整った顔が涙とか血とかの体液でぐっちゃぐちゃじゃん!

 コレがあの凛々しくてミステリアスな雰囲気を醸し出してる美女とか……無様だわー!!


「さてと!」


「ぐべっ!?」


 マリアナの顔を足蹴にして遊ぶのはこのくらいにして。


「私が何様かって言ったな?」


「……!」


 あれ? おかしいな。

 返事がないんですけど……


『そりゃあ顔を地面に押しつけてたら返事はできないと思うよ?』


 ん? あっ、本当だ。

 とりあえず蹴ってぐちゃぐちゃになった顔を回復させたから仕切り直しで踏みつけ直したつもりだったんだけど、顔を地面に押しつけちゃってとは……


「こほん!」


 じゃ、気を取り直して!


「私は最強の魔王!

 始まりたる原初の悪魔にして……超越者へと至った存在。

 本当の真なる神が一柱ヒトリ、全ての魔を司る魔神! そして……」


 踏み付けてたマリアナを魔法で動かないように縛ってから持ち上げてこっちを向かせてっと。

 雲が途切れて大地を照らす月光を背に、純白の翼を広げてこっちを見上げるマリアナを見下ろし……


「お前を、お前達を、人間を……世界を憎悪する復讐者!

 ふふふ! さぁ楽しい愉しい復讐遊びの時間!

 バカで愚かな人間よ、自らの過ちを後悔しろ!!」

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