第159話 さぁ……戦争を始めよう!

 かつての魔王のような強大な脅威が迫った際に、五大国の内3ヵ国の主君の連盟によって開かれる緊急国家会議。



『さて……皆さん賛否両論あるだろうけど、そろそろ決議を取るとしよう』



 魔王を倒し世界を守った英雄、救世の六英雄と各国の王達が顔を揃える会議を取り仕切るのは超大国を統べる若き英雄王。

 かつて魔王を討ち倒した英雄のリーダー、勇者ノアール。


 子供達のヒーローにして、結婚した今となっても社交の場に出れば多くの御令嬢達にさぞモテるとか。

 まぁ、その本性は婚約者に隠れて浮気した上に、冤罪を被せて元婚約者の家族諸共処刑するようなクズ男だけど。



『じゃあ、賛成の方は挙手をお願いします』



 そして、そんなクズ勇者ことノアールを傍で支える黒髪の少女。

 ノアールの寵愛を一身に受けるアルタイル王国の王妃にして異世界よりやって来た聖女リナ。


 他人の婚約者を寝取ったクソビッチの尻軽女で、それだけでは飽き足らずに何の罪もない公爵令嬢に冤罪をかけて殺した悪女。

 世間では心優しく、可憐な聖女様とか言われてるとか……まぁ、どうでも良いけど。


『悪魔ちゃん、言葉と表情が一致して無いよ?

 そんなゴミを見るような目で、珍しく表情を変えて睨み付けてるのにどうでも良いって……』


 むっ、私としたことが。

 ポーカーフェイス、ポーカーフェイスっと!


「ふっ」


 常に余裕ある微笑みを浮かべてこそ大魔王!

 優美でクール。

 決して底を見通せない程に圧倒的な力と溢れる出る威厳! これでこそカッコいい魔神!!


『いや残念だけど、いつも通りの無表情だよ』


 くっ、さっきから一々煩い! ちょっと黙ってろ。

 こちとら自分達が強いって勘違いしてるバカな勇者達……愚かな人間共の滑稽な会議を観るのに忙しいんだよ!!


『はいはい。

 でも覗き見は良くないと思うよ?』

 

 は? いやいやいや、お前がそれを言っちゃいますか?

 いっつも私の事を覗き見て、からかってるくせに……


『あはは、まぁ私は神々の中でも偉い神様だからね。

 だからこうして同じ神である悪魔ちゃんを覗き見して、からかってもなんの問題も無いのさ』


 うぜぇ……

 邪神のドヤ顔が目に浮かぶわ、いや邪神の顔なんて知らんけど。

 うん、邪神はもう無視だな。

 勇者達の会議ももう佳境に差し掛かってるし。



『っ……!』



 まっ、当然こうなるよね。

 殆ど全員……てか、五大国の王として参加してるアランとガスター以外の全員が挙手しちゃってるし。

 必死になって説得しようと奔走してたガスターがちょっと哀れだわ。



『反対の議決を取るまでもなく、賛成過多のようだね。

 じゃあこれで……』


『ちょっと待て! お前ら本当に俺の調査報告を聞いてたのか!?

 ヤツらの力は!』


『ガスター、どうしたんだ?』


『クリスの言う通りよ。

 確かに悪魔の軍勢は脅威だけど、その程度の事に臆する貴方じゃ無いでしょう?』


『そうそう! 確かに普通の兵士では太刀打ちできないだろうけど私達なら悪魔が相手でも大丈夫だよ』


『いや、お前らわかってねぇ。

 ヤツらと……悪魔王国とは敵対するべきじゃ無い。

 五大国の一角をしめるアクムス王国が容易く敗れたのを忘れたのか?』



 まぁ、確かにフェリシアの言う通り下級悪魔程度だったら勇者達なら問題なく勝てる。

 勇者達じゃなくてもそれなりの実力者……Bランク以上の冒険者ならパーティーで挑めば渡り合えるだろうな。


 あくまでも、下級悪魔ならの話だけど。

 その辺りを身で持って理解してるガスターが必死になるのも無理はない。


 高位……上位悪魔グレーターデーモンなら例え勇者達でも単独ならそう簡単には勝てないだろうし。

 それ以上になると、言うまでも無い。



『アクムス王、アンタならこれがどれ程無謀な事かわかるハズだ』



 まぁ、ここでアクムス王国の話を持ち出すのは当然だろうけど。

 ふふふ、無駄だろうなぁ。



『既に我がアクスム王国とかの国は歴とした国交を樹立した同盟国。

 貴公らが魔国と戦争をすると言うのならば止めしないが、我がアクスム王国が貴公らと共に魔国と開戦することは無い』



 おぉ、アランがしっかりと王様やってる!

 しっかりと同盟国って言って魔国に着く事を匂わしてるし、なんかちょっと感動したわ。



『ははは、臆されましたかな? アクスム王』


『まぁまぁ、大国の王といってもまだアラン殿は若い上に国王となって日も浅い。

 このようなこの国を、大陸の行く末すらも左右する重要な決断を迫るのは酷でしょう』



 いやぁー、懐かしいな。

 このあからさまに侮った嫌味! これでこそ愚かで醜い人間!!

 潰し甲斐があるってもんだわ。



『はぁ、ではハッキリ言いましょう。

 例え貴公らが魔国と開戦しようとも、我らアクムス王国が貴公らに協力する事は一切無い』


『なっ! では貴殿は悪魔王国の味方をし、我らと矛を交えると仰るのか!?』


『同盟国ですから魔国からの要請があった場合はそうなるでしょう。

 尤も、そのような要請があるとは思えませんが』


『ほう、なるほど。

 そのような要請は無いと……ぐはっはっ! いや、確かにそう言う事情なら仕方ありませんな』



 う〜ん、あの厳ついオッサン、確実に勘違いしてるな。

 アランは文字通り、魔国からの救援の要請なんて無いだろうって言っただけなのに。



『チッ、とにかく考え直すべきだ!』


『ガスター殿。

 確かに悪魔の軍勢は脅威でしょうが、貴殿らには及ばずとも悪魔と渡り合える者は多くおります』


『だからあの国にはアクスムを1日で降伏されるだけの戦力が……』


『それは、愚王と名高かった先王を廃し、アラン殿が王位に就くために裏で……』


『口が過ぎますぞ』


『おっと、これはとんだ失礼を』



 うわぁ、アランに向かって頭を下げてはいるけどわざとらしっ!

 けどまぁ、あの場にいる王達の殆ど全員が今あのデブが言った事と同じ事を考えてるだろうな。


 五大国の一角であるアクスム王国が、たった1日で敗れた到底信じがたいだろうし。

 先王を廃してアランが王位に就くための密約があったり、その密約でアクスム王国は仕方なく魔国と同盟を結んだと考えるのは当然。


 まぁ、その推測は正解だよ?

 ふふふ……ただ一つ、、密約なんて無くても私達が1日も掛からずにアクスム王国を焦土に変えるだけの戦力を持ってるって事以外は。



『ガスター、キミの言い分もわかる。

 魔国と戦争をするとなれば、決して少なくない犠牲が出るだろう。

 でも、危険な悪魔達を放置するわけにはいかないんだ』


『ノアール……』



「ふふっ」


 言いたいだろうなぁー、声を大にして叫びたいだろうなぁ。

 自分たちが知ってる悪魔はただの下っ端で、もっと強大な悪魔がいっぱい居るって。

 まっ! 魔法で縛ってるから言えないけど!!



『では改めて、ここに緊急国家会議の決議はなった。

 最初に名乗りを上げたグローリー王国、フラン帝国、アウストロ皇国。

 この3カ国の連名により魔国……悪魔王国ナイトメアへと宣戦布告を!』



 ふふふ! ここに愚かな人間達の選択は成された!!

 さぁ……


『聖戦を開始する!』


「戦争を始めよう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る