第150話 そ、そんなつもり無いよ?

『協力?』


 いかにも! 実は1週間くらい前に……


「ご主人様、お疲れ様でした!

 どうぞ、温かいココアですよ」


 ココアっ!


「ん、ありがと」


 ふぅ〜、やっぱりミーシャのココアはマジで美味しいわ。

 もう! 世界一っ!!

 復讐で荒んでた心に染み渡るわぁー。


「……」


『悪魔ちゃん……ほら、リリィーも呆れちゃってるよ?』


 呆れる? 何に?


『何にって、差し出されたココアに子供みたいに目を輝かせて、今もコテンと首を傾げちゃって……』


「か、可愛い……!」


『え? そこ?

 いやまぁ、確かに可愛かったけど……』


 無視するな!

 さっきから何をモゴモゴと……


『まぁまぁ、そんな事より協力って?』


 むぅ……まぁ良い。

 聞いて驚け! 実はこのリリィーは……あれ、どうしたんだろ?

 若干頬が上気して赤くなって、脈もちょっと早くなってるし、様子がおかしい気が……


「レフィーお嬢様。

 どうやらリリィーさんは少し緊張し過ぎてしまったようです」


「大丈夫なの?」


「少し散歩でもして外の空気を吸えば問題ないかと。

 このままでは緊張のあまり倒れてしまうかも知れませんので、少し休憩がてら外の湖に案内しようと思うのですがよろしいでしょうか?」


 う〜ん、まぁ確かに倒れちゃったら話しができないし。

 本音を言えば早く終わらせたいんだけど……まぁ、仕方ないか。


「わかった」


「では、そう言う事ですので私は少し外します。

 ミーシャ、ミリア、セシリア、そしてリーナとミーナ。

 レフィーお嬢様のお世話は任せましたよ」


「お任せ下さい!」


「わかりました」


「「「かしこまりました」」」


 おぉー、流石は親娘! セシリア、リーナ、ミーナの3人とも息ピッタリ!!


「ではリリィーさん、こちらへ。

 先程おっしゃった事について少し私と語らいましょう」


「は、はい」


 先程おっしゃった事?


『あぁ、まぁ悪魔ちゃんは気にしなくても良いと思うよ?

 それより、いい加減話して欲しいんだけど』


 ん? そんなに聞きたい?

 ふっふっふ、そこまで言うのなら仕方ない!

 実はリリィーは1週間ほど前に魔国ナイトメアの大使館に乗り込んで来たのだ!!


『えっ……』


 そんな反応になるのも仕方ない。

 実際私もガスターの妹であるリリィーが来たって聞いた時は同じような反応になったし。


『乗り込んでって、彼女が直接魔国の大使館に?』


 そう、流石の私も驚いわ。

 まぁ、とにかく! 何故リリィーがそんな事が可能だったかと言うだな。


 ガスターが世界でも有数の強者。

 下手な貴族よりも強い権力を持つSランク冒険者となった事で、リリィーを変態貴族に売ろうとしていた件の親戚一家からは解放された。


 そこからはお前も知っての通り、魔王配下の幹部によって呪いを受けたわけだけど。

 それはガスターがアバズレ聖女達と交わした密約で解呪できた。


 そして、そんな妹を救うべく勇者と共に魔王を討ち滅ぼしたガスターの功績もあってリリィーはアルタイル王国の当主が要職に就いている侯爵家の養子になった。


『あぁ〜、何となく話しが読めてきたよ』


 養女とは言え、世界最大の超大国が侯爵令嬢。

 しかも、戦争によって没落はしたものの由緒正しき血筋に、救世の六英雄が実の妹。


 そんなアルタイル王国の貴族令嬢の中でも最高位の御令嬢の一人だったリリィーは私の噂……

 アクムス王国を降した悪魔王国ナイトメアはその国名の通り悪魔の王が支配する国。


 そして、悪魔族デーモンとは勇者を筆頭にガスター達が罪なき少女を殺した事で誕生した種族だって噂を聞いて。

 まぁ、まさにその通りなわけだけど……悪魔が兄達に復讐をしに来たんじゃないかと考えた。


 そんで超大国の侯爵令嬢としての、救世の六英雄の妹だと言う立場と持ちうる様々な伝手を駆使して。

 そして何より持ち前の行動力を発揮してアクムス王国に魔国への謁見を打診。


 アクムス王アランがシルヴィアを通じて私にどうするか判断を求めて。

 いつも通りスイーツを美味しく食べながら適当に……げふん、げふん! 超重要な責務を果たしつつも私が了承した結果!!


 何とリリィーは魔国の大使館に乗り込む……もとい、正式なアポを取って謁見にやって来たってわけよ。

 まぁ、リリィーがアルタイル王国の侯爵家の養女になってる事は事前の調査で知ってたけど。


 当時私がガスター達に貶められて公開処刑された時、リリィーは呪いに倒れていたわけで、兄であるガスターはともかくリリィーは私に何もしていない。


 だからリリィーには何する気は無かったんだけど。

 直接乗り込んで来られたなら仕方ないじゃん?

 別にお門違いな復讐なんて間違っているとか遠回しに言われてちょっとイラッとしたとかそんな事実はどこにも無いけど!?


『悪魔ちゃん……』


 とにかく!

 私の事情を説明して、証拠として記憶を見せてやったら涙ながらに謝罪してくれたまでは良かったんだけど……

 ガスター達が私にした事が許せなかったらしくて、何故か復讐に協力するとか言い出してさ。


 当然! 私は辛い幼少期を過ごした親戚の家からも解放され。

 呪いからも解放されて、侯爵令嬢として幸せに過ごしてるリリィーを巻き込むつもりなんてこれっぽっちも無かったよ?


 そりゃあもう、色んな条件まで提示して大人しく帰るように説得したけど。

 ふふふ、結局は私が折れてリリィーに協力してもらう事になったのだよ!!


『……悪魔ちゃん、もしかして……と言うか、ほぼ確実に最初からそうなるってわかってたよね?』


 な、ななな何言ってんの!? そんな事全然無いし!

 確かに事前の調査でリリィーは腕っ節だけでSランク冒険者にまで上り詰めたガスターの妹なだけあって勝ち気な性格をしてたのは知ってたし。


 リリィーの協力があった方が私的には非常に都合が良かったわけだけど!

 断じて! 断じて関係の無いリリィーを巻き込むつもりなん全然! 一切無かったし!!


『まぁ、そう言う事にしておいてあげるよ』


 本当に! 本当に、最初はリリィーを巻き込むつもりなんて無かったんだからな!!

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