第133話 救世の英雄達

 多くの種族、多くの人々が住う大陸。

 古くは安息の大地と呼ばれたこの地において、かつて女神が降臨した伝えられ、最も神聖とされる場所。


 遥か遠く前方には豊かな都市が見下ろせ、後方に連なるは雲を貫く広大な山脈。

 見渡す限りの大雪原が広がる中、霊峰の頂上に存在する神殿の周囲だけは常に緑が芽吹く。


 例え周りが猛吹雪に包まれようとも、その場所だけは暖かな太陽の光が降り注ぐ。

 人々が安易に足を踏み入れてはならない神の領域、霊峰ルミエル。


「おっ、来たようだな」


「そのようね」


「やっと来たか」


「まぁ、いつもの事だけどね」


 本来ならば特別な日以外誰も足を踏み入れる事は無く、静寂が支配しているハズの霊峰にそんな会話が鳴り響く。

 神殿の中、女神の神像の前に設けられた円卓を囲む4人の人物。


 その者達の視線の先。

 神殿の入り口付近にて魔力が揺らぎ、直後に空間が捩れるようにして白き輝きを放つ扉が出現する。

 そして押し開かれた扉から姿を表すは2人の人物……


「呼び出しておいて、遅れてしまって悪いね」


「皆んな、久しぶり!

 遅刻してごめんね?」


 金髪碧眼、いかにも王子様然とした様相の青年は柔らかな笑みを浮かべながら謝罪を口にし。

 黒髪黒目の少女と見紛う程に若々しい女性は楽しげな笑みを浮かべる。


「たく、遅せぇぞ2人とも」


「うふふ、2人とも久しぶりね」


「やぁ、本当に久しぶりだね」


「本当! 本当! リナもノアも久しぶり!

 あっ、今はもう愛称で呼んだらマズイかな?」


 各々が和やかな雰囲気で笑みを浮かべる4人。

 かつて共に戦った戦友であり、気の許せる仲間である彼らとの久しぶりの再会に青年と女性。

 幼さを残す少女にリア、ノアと呼ばれた2人。


 世界最大の超大国アルタイル王国の現国王にして世界を救った勇者であるノアール・エル・アルタイル。

 そして、ノアールのたった一人の妻にして聖女であるリナ・エル・アルタイルの顔には久しぶりの仲間達との再会に喜びの笑みが浮かぶ。


「ガスター、すまない。

 これでも結構忙しい身でね。

 あとフェリシア、別に今まで通りで構わないよ」


「うん、ノアの言う通り私も今まで通りで構わないよ!

 立場は変わっても私達は掛け替えの無い仲間だもん」


 そう言いつつ2人は女神神像の前。

 空いていた席に腰を下ろし、ノアールは信頼する仲間達の顔を見渡す。


「しかし、本当に久しぶりだね。

 皆んな元気そうでよかったよ」


 しみじみと懐かしむような面持ちで、呟くように話すノアールにガスターが楽しげに笑う。


「クックック、当然だろ?

 この中の誰かが体調でも崩したら、それこそ天変地異でも起こるぞ?」


「ふふふ、確かに。

 能天気なガスターが風邪でも引いたらそうなるかもしれないわね」


「マリアナ、お前なぁ……」


「はは、確かにマリアナの言う通りだな」


「クリスまで……お前ら俺を何だと思ってんだよ?」


 ローブを揺らしながら楽しげに笑う美女。

 マリアナと装飾の施された純白の祭服に身を包む美青年を絵に描いたようなクリスをガスターがジト目で睨む。


「まぁ、ガスターは風邪とかとは無縁そうだもんね」


「ふふ、確かに」


「すまないガスター、僕も否定できない」


「フェリシア達もかよ…… はぁ」

 

 ガッカリと肩を落としたガスターはため息を挟むと、スッと真剣な面持ちを作り


「それで俺達をここに呼び出したのはやっぱりか?」


「そう、ガスターに先に言われちゃったけど。

 今回こうして皆んなに集まってもらったのは他でも無い、アクムスを降した彼の国。

 悪魔王国ナイトメアの事だ」


 ノアールの言葉に、この場に集まった全員の顔に真剣な色が宿る。


「皆んなも知っていると思うけど、彼の国は悪魔の王が治る国」


「そして、その悪魔の王曰く。

 悪魔族デーモンと言う種族は5年半前、冤罪で殺された少女の怨念によって誕生した種族、だったかしら?」


 ノアールの言葉を継いだマリアナの言葉にフェリシアが軽く首を傾げる。


「それって、やっぱりあの人の事だよね?」


「下らない。

 あの女も悪魔だったんだ、あの公開処刑が原因だと言うなら物理的に説明がつかない。

 大方その悪魔の王とやらの戯言でしょう」


 そう言い捨てながらもクリスは、悪魔王国なるモノを名乗る存在の後ろに何処かしらの国家の影がある可能性を思考する。


「冤罪だなんて、私……」


「リナ、気にしないで。

 クリスの言う通り、あんなのは僕達を貶めようとした虚言に決まってるんだから」


「ノア……」


「悪いが、イチャつくのは2人の時にしてくれ」


 至近距離で見つめ合うノアールとリナにガスターを筆頭に4人が苦笑い浮かべる。


「あはは、悪いね。

 それで、本題なんだけど。

 悪魔族云々はともかく、彼の国を治めているのが本当に悪魔の王だと言うのなら看過できない」


「魔王やあの女に変わる新たな脅威の登場ってわけね」


「マリアナの言う通り、だから皆んなに提案……と言うよりお願いがある。

 仮にも彼の国は国家を名乗り、五大国の一角であるアクムス王国がそれを認めている。

 つまり、いくら悪魔の国であろうとも正真正銘の国家を相手取らないとダメなわけだけど……皆んな手を貸してくれるかい?」


「クックック、何を今更」


「ふふふ、確かにね」


「それが事実ならそれは既に我ら人類全員の問題だしね」


「勿論だよ!」


「あはは、皆んなならそう言ってくれると思ってたよ」


「皆んな! ありがとう!!」


 その日。

 大陸で最も神聖とされる霊峰ルミエルにて、魔王を討ち倒した英雄達が……


 世界最大の超大国。

 五大国が一角であるアルタイル王国が国王夫妻である勇者ノアールと聖女リナ。


 五大国が一角にして魔塔を収める数名の賢者によって統治される魔法大国。

 魔法都市連合王国の頂点に立つ女王、大賢者マリアナ。


 大陸全土で広く信仰されている女神を主神とするアナスタシア教。

 その総本山にして五大国が一角に数えられるアナスタシア教国が王、聖騎士にして教皇であるクリス。

 そして……


「クックック、相手は自ら悪魔を名乗ってんだ。

 国家だろうが何だろうが悪魔は悪魔、人々に害をなす魔物には違いねぇからな」


 一国の王と同等の権力を持つと言われる最高位冒険者。

 世界中に数十名程しか存在しないSランク冒険者の一人、冒険王ガスター。


「とりあえず斥候として俺が出向くとするか」


 魔王を討ち倒し、巨悪を滅ぼした救世の英雄達。

 勇者パーティーが再び誕生した。

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