第110話 宣戦布告 その1
商業と物流の中心地にして商人の聖地。
この地で手に入らない物は何も無いとまで称される海洋商業国家アクムス王国。
荘厳な王城の中でも最も格式高い場所。
厳かで清廉とした静寂が満ちる謁見の間には今、多くの貴族が立ち並び騒然とした様相を呈していた。
「な、何なのだ! アレは一体なんだったのだっ……!?」
これでもかと贅を凝らしたゴテゴテと豪奢で派手な衣装を身にまとい。
指には大きな宝石のついた指輪がいくつも並べた男。
現アクムス王国国王の絶叫のような怒鳴り声が鳴り響くも。
肥え太った身体を揺らしながら唾を飛ばす国王の怒鳴り声での疑問に答えられる者は誰一人としていなかった……
*
数時間前。
アクムス王国国王ピホッグ・ジョン・アクムスは、いつものように踊り子の様な露出の多い装い……半裸の美女を幾人も傍に侍らせ自室で酒を飲んでいた。
そう、これはいつも通りの変わり映えのない日常。
今日も昨日と同じく平民が一生掛かっても飲む事ができない最高級の美酒を飲み、最高の美女達を抱く。
そのハズだった。
国王たる自身の手を煩わせるなどと言う万死にも値する事など何も無く、一日が終わるハズだった。
いい具合に酒も周り、そろそろベッドで遊ぶかと傍にいた女性の腿に手を這わせ、胸に手を伸ばしたその瞬間……
気が付いた時には目の前に美女は存在せず、胸を揉みしだこうとしていた手が空を切る。
「これはどういう……」
「陛下」
国王であるピホッグに代わって宮廷を取り仕切るアクムス王国が宰相。
グランツェ公爵が突然の事で唖然とするピホッグに走り寄る。
「グランツェ公か。
これはどういう事だ? なぜ私は突然謁見の間におるのか説明せよ。
私の時間を邪魔した上に手を煩わせているのだ、もし下らん理由だったら……わかっておろうな?」
ギロリとグランツェ公爵を睨み付けるが、それをグランツェ公爵は特に気に留める様子もなくスッと頭を下げる。
「申し訳ございません。
我らも陛下と同様、気が付いたらこの謁見の間にいたと言う状況ですので原因は不明です」
淡々と告げるグランツェ公爵の言う通り、確かに謁見の間には他にも幾人かの者がいる。
だが、それがどうしたと言うだ。
私の手を煩わせている事には違いないではないか! 再び声を出そうとしたピホッグよりも先にグランツェ公爵が深々と頭を下げる。
「恐れながら進言させていただきますが、何か御召し物を着た方がよろしいかと」
そう言われて、ピホッグ王は自身の身体を見下ろし……
「っ! とっとと儂の服を持ってまいれっ!!」
女を抱くつもりだったせいで下着姿……それも、股間を膨らませた状態で国王にあるまじき醜態を晒していたピホッグ王が声を荒げて叫び……
「ふふ、本当にお嬢様が来なくて正解だわ。
まさか、醜い豚の盛った光景だけじゃ無く、欲情した穢らわしい姿を直接見るハメになるだなんて……」
国王の声に静まり返った謁見の間に凛と美しい声が響き渡った。
誰もが一斉にこの声の元に視線を向けて思わず息を呑む。
彼らの視線の先、そこには……
「アクムス王国の重鎮の皆様。
お初にお目にかかります、ワタクシの名はセシリア。
悪魔王国、ナイトメアからの使者にございます」
悠然と微笑みを浮かべる絶世の美女が佇んでいた。
その魔性の美貌に誰もが唖然とする中、最も早く正気に戻ったのは宰相たるグランツェ公爵。
「悪魔王国、ナイトメア……聞いた事がありませんね」
「貴方達が知らないのも当然です。
我が国、
この大陸では史上初めて名が上がった国ですので」
「……それで、これは貴女の仕業ですか?」
「いかにも。
ワタクシが皆様をこの場に強制転移いたしました」
悠然とした笑みを絶やさない美女の顔を見ながら、グランツェ公爵は明晰な頭脳をで思考する。
流石に大賢者様クラスでないと扱えない強制転移は虚言として、この者は油断できないと判断を下して口を開く。
「して、
貴殿の目的を聞きましょうか」
「ふふふ、私は主人のお言葉を伝えに来ただけです」
「言葉ですか?」
「えぇ、我が主人は仰いました。
物流の中心地たるアクムス王国、我ら
こちらが細かな内容です」
パチンとセシリアが指を鳴らすと同時にグランツェ公爵の目の前に一枚の紙が現れる。
その事実に目を見開きながらも、そこに書かれている内容を目を通す。
「対等な立場での国交の樹立ですか」
「如何にも、我が主人は貴国との対等な関係を望まれております」
「ふむ、わかりま……」
「えぇい! 騒がしいぞ!!」
グランツェ公爵の言葉を遮り、ローブを羽織り身体を隠した国王ピホッグが声を上げる。
「聞いた事もない様な弱小国家などどうでも良いわ。
それよりも貴様、もっと儂の近うに寄れ。
グフフ、喜べ! 貴様はこのアクムス王国が国王たる儂の女にしてやろう!!」
ニタニタと欲に塗れた顔で、セシリアの身体を舐め回すように見つめて言い放った。
その瞬間、謁見の間の空気が一瞬凍りつき……
「それが貴国の判断ですか。
残念ですが、承知しました……ではこれより我が国、
「宣戦っ、それは……」
「では、ワタクシはこれで失礼致します」
「待て! 貴様は儂のモノだっ!!」
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