第88話 神と呼ばれる領域

「っ……」


 誰かが息を呑む声が鳴り響く。

 果たして息を呑んだのはファルニクスなのか、シルヴィア達なのか、それとも全員か。


「ふぅ……」


 まぁ何でも良い。

 今重要なのは誰が息を呑んだとかじゃ無くて……


「離せ」


「っ!」


 ただ離せって付与しただけなのに、背後から羽交い締めしていたファルニクスが弾き飛んだ。

 これが意味する事はつまり!


「ふふ……ふふふ! あはっはっは!!」


 ファルニクスと同じ神と呼ばれる領域まで達したのかはわからないけど、少なくともファルニクスとそれなりに渡り合える力は手にしたっ!!


「そんな事が……」


『これは流石に予想外だよ。

 まさか本当に神に……超越者に至るなんて』


 ふっふっふ! ファルニクスも邪神も相当ビックリしてるみたいだな。

 まぁ、それも当然か。


 超越者とかはちょっと意味不明だけど、私が覚醒したのは事実だし。

 そもそも普通は世界に満ちる魔素を任意で取り込み、自身を強化する事なんて不可能なわけだし。


 この世界で魔素量エネルギーを増やす方法は主に2つ。

 1つは自身の魔素量エネルギーを高めるために修練を積む事。

 そしてもう1つは生命体を殺してその魂を経験値として吸収する事。


 まぁ消費したエネルギーを回復するために多少は周囲の環境からも魔素を取り込むけど。

 とにかく、この2つ以外に魔素量エネルギーを増加させる方法は進化とか一部の例外を省いて存在しない。


「一体どうやって……」


 ファルニクスの疑問は尤もだ。

 本来ならば不可能なはずの大気中に存在する魔素を。

 それも神たるファルニクスが支配する神域の魔素を取り込んだのか。


 答えは簡単。

 そもそも私のユニークスキル〝付与者〟の主な権能は干渉。

 世界に干渉して世界を書き直す力。


 その権能でファルニクスの神域に干渉し、神域をファルニクスの支配下から外す。

 無論ファルニクスの方が遥かに格上だし、支配下から外せるのはほんの一瞬だけだけど。


 一瞬あればそれで十分。

 神域をファルニクスの支配下から外した上でエクストラスキル〝魔素支配〟で干渉してる魔素全て把握して支配下に収める。


 そんでもって〝暴食者〟でその全てを喰らい尽くした訳だけど……まぁ、わざわざ教えてあげる必要もないし。

 今はそんな事よりも!


「滅球」


 さっきの続きを楽しまないと!!

 周囲に浮かぶ真っ白に輝く数個の球体。

 ふっふっふ! 翼も出して魔力制御が全開な今の私なら、ホーリーを一箇所に留め置く事なんて容易いのだよ!


「さぁ、踊れ!」


 取り敢えずは滅球5個だ。

 速度は普通のホーリーより多少落ちるけど、その分私の思う通りに動かせる。

 情報把握と処理が凄まじいけど、森羅万象と思考加速を使えば全くもって問題ない。


「くっ……ちょっと邪神さん! どうにかして下さい!!」


 まぁこの程度なら問題なく躱せるか。

 四方八方、360度から絶え間なく襲い掛かって来る滅球を避けながら邪神に愚痴る余裕まである。

 滅球の数を増やしてもいいけど……


「圧縮……」


 新たに作り出しふわふわと周囲を浮遊する10個の滅球。

 ギュッと手を握り締めると同時に全て中心に圧縮して押し留める。


「できた」


 ふふふ、滅球10個分のエネルギーを凝縮した巨大な滅球のできあがり!


「ちょっ、本当にちょっと待って! それはヤバイ!!」


「あははっ!」


 待てと言われて待つヤツがどこにいる!!

 後は現在進行形で滅球を避けてるファルニクスの足元をタイミングを見計らって凍り付かせて……


「っ!」


「ふっふっふ! 喰らえ……あ、れ?」



 ドロッ……



 視界が赤く染まって……これは、血?

 魔力制御が定まらない……力が、身体に力が全く入らない……


「ぅ、ぁ……」


「レフィーお嬢様っ!!」


 身体中の力が抜けて空中を落下する中、焦ったようなシルヴィア達の声を最後に意識が黒く染まった……

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