第64話 VS竜王 原初の悪魔

 …


 ……


 …………



「ふ、ふはっはっは!」


「我らの勝利だっ!!」


 静まり返った空間に数名の明るい声が鳴り響く。

 自らの主君が勝利した事に対する安堵。

 その勝利に貢献できたと言う高揚感。

 竜王グランと共に敵陣へと攻め入る事を許された数名の側近達は皆その興奮に笑みを浮かべ……


「何の真似だ?」


 一斉に凍り付いた。


「貴様ら……」


 それは、重く。

 世界がのし掛かって来るかのような重圧と……


「これは何の真似だ?」


「「「「「「っ!!」」」」」」


 明確な殺気。

 自身へと向けられたソレに。

 向けられた古竜王の瞳に全員が息を呑む。


 それは絶対的上位者に対する畏怖と恐怖。

 全身から滝のように汗が吹き出し、手足が……身体が意志とは関係無く自然と震える。


「わ、我々はただ、グラン様に勝利を……」


「貴様らにどのような考えがあろうと、貴様らの行いは我らの闘いを汚す行為に他ならぬ」


「っ! も、申し訳ございません……」


 側近の中でも最も高位の存在。

 グランの右腕たる男が謝罪を述べると同時に、全員が主君の沙汰を待つように跪く。


「……興がさめた」


 人の姿へと戻ったグランが跪く側近達の前に降り立ち、踵を返す。


「帰るぞ」


「し、しかしグラン様っ!」


「黙れ」


「「「「「「っ!!」」」」」」


 肩越しに覗く鋭い視線。

 静かでありながら深く重い怒気を受けて、入り口へと向かって歩みを進めるグランに思わず声をかけた側近達が息を呑み身を竦める。


「貴様らはよく仕えてくれる、だからこそ罰しはしない。

 しかし、我らの闘いを汚した罪は重いと心得よ。

 行くぞ、地上へと帰還する」


「「「「「「はっ!!」」」」」」


 自分達の勝手な行動が主君に不愉快な思いにさせてしまった。

 最強にして孤高。

 永らくつまらなそうだった主君が数百年ぶりに心底楽しんでいた闘いを台無しにしてしまった。


 側近達はその事実を重く受け止めつつ、それでもなお自分達を叱責する事のない心優しき主君の言葉に答え。

 グランはそんな彼らを一瞥して再び歩みを進め……


「竜王グラン、何処へ行く?」


 驚愕に目を見開いて動きを止めた。

 その場に居合わせた全員が咄嗟に、突如として背後から響き渡った声に振り向き……


「もう勝ったつもりか?」


「馬鹿な……」


 漆黒の羽毛。

 天使の翼を黒く染め上げたような翼を広げ、虚空に浮かぶその存在に。

 先程、上半身を消し飛ばされたハズの存在に唖然と目を見開いた。


「貴殿は今し方、我のブレスを受けて死んだハズ……」


 唖然とグランが声を漏らす。

 そんなこの場にいる全員の内心を代弁するかのような言葉を受けて、その存在悪魔は……レフィーは僅かに口角を吊り上げる。


「最初に言ったハズ。

 このダンジョン内において、私が死ぬ事は有り得ない」


 唖然とする竜王達に、原初の悪魔が襲い掛かった。

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