第23話 豚の皇帝、それは的

 目の前で燃え盛る業火。

 耳障りな絶叫がそこかしこから響き渡り、某有名忍者マンガに出てくる消えない炎をイメージした黒炎が視界を埋め尽くす。


「醜い豚め、骨すら残さず灰になれ」


 嫌悪感が限界突破して思わず攻撃しちゃったけど、むしろ良くやった私!

 なんか阿鼻叫喚の地獄になってるけど……まぁ、誰にも迷惑かけてないし別にいいや。


 けどプッツンしちゃったとは言え、さっき一回試した黒炎を放ったのは良くなかったかな?

 せっかくの生きた的だったのに勿体ない。

 違う魔法を試したかったのに……


 けどまぁ、全身を舐め回すような目で見られて。

 ニタニタと笑いながらあんな事言われたら、反射的に殺しちゃっても仕方ない。

 あんな豚共……魂だとしても触れたくないし、もう帰っていいかな? 良いですよね? よし帰ろう。


「ブォォォオッ!!」


 空気を震わせるような雄叫びが響き渡って、黒炎の一角が弾け飛ぶ。


「……」


 いやー、驚きだわ。

 全身焼け爛れて、一部は炭化してるけど、まさか黒炎をまともに喰らって生き残るとは。

 流石はオークエンペラーってところかな?


「ヨグモ……キザマ、ユルサンゾ……ブヒィィっ! ユルサンゾ、キザマァァッ!!」


 どうせ勝てないんだから、死んだフリでもしてれば良いのに。

 やっぱり、多少の知恵はあっても豚は豚って訳か。

 と言うか普通に煩い。

 こんなヤツの声なんて聞きたくもないのに……


「不愉快だ、黙れ」


「ッ〜!?」


 喚き散らしていたオークエンペラーが驚愕に目を見開く。

 実に滑稽な姿だけど……まぁ、いきなり喋れなくなったらこうなるか。

 うん、ちょっとだけ溜飲が下がったわ。


「レフィーお嬢様、これは……」


「あの豚に〝沈黙〟を付与した」


 これであの煩わしい声を聞かなくて良いし。

 何より、この世界に今まで無かった付与の使い方を実戦で試す事ができた。


「流石はレフィーお嬢様!!

 まさか付与を用いて、このような事を成功させてしまわれるなんてっ!!」


 シルヴィアは嬉々としてるけど、ぶっちゃけそこまでの事でもないと思う。

 だって、強制的に黙らせただけだし。

 敵を黙らせる程度なら方法は幾らでもあるだろうし。


 まぁ、初戦闘の実験としては十分!

 そう、初戦闘! これ重要。

 昨日エルダーリッチと遭遇はしたけど、あんなのを断じて戦闘とは認めない。


 初戦闘って言ったら普通は、最弱の魔物として有名なゴブリンかスライムじゃん!

 それなのに神話生物って……流石にないわー。

 オークエンペラーが率いるオークの群れってのも釈然としないけど、まぁ神話生物よりはまだマシだわ。


 本当に。

 ガチで釈然としないけど、まだ許せる。

 ねぇ、邪神さん、そう思いませんか??


 このテンプレを無視した状況について、世界の運営管理者に文句を言うくらいは許されて然るべきだと思う。

 公爵令嬢が仮にも神にこんな事を言ったら、その品位を疑われるだろうけど、殺されて今の私は悪魔だし……


 てか、無視ですか。

 そうですか。

 クソ邪神め……はぁ、もう良いや。


 それよりも、せっかくオークエンペラーと言う名の的が生きてた訳だし。

 もうちょっと人体実験……もとい、戦闘訓練を続けるとしよう!


「とりあえず……えい!」



 バチィィィッ!!



 けたたましい轟音と共に、黒雷がオークエンペラーに降り注ぐ。


「できた」


 昨日見たシルヴィアの雷を真似てみたけど……できちゃったよっ!?

 いや、まぁ規模は小さいけども! うわぁ、ちょっと感動だわ!!


 火の魔法はこの世界では意外と普通に使われてるから、感動も小さかったけど。

 雷を操る魔法は聞いた事はあっても、見た事は一度もない!


 しかも全く詠唱を唱えないで簡単に発動できる!

 詠唱破棄って言うと、賢者とか呼ばれるレベルの人じゃないと使えない超高等技術!


 前世でも一切使えなかったのに、今となっては意のままに魔法が使える!

 ヤバイ……なんか、テンション上がってきたっ! オタク兼ゲーマーとしてのスイッチが完全に入ったわ!!


 よし、こうなったらあの豚には死ぬまで検証に付き合ってもらおう。

 肉が焦げた匂いがして煙も出てるけど、何か負ってる傷も徐々に修復されてるし、まだまだ大丈夫そうだ。

 まぁその分、苦しむ事になるだろうけど……まぁ、自業自得ってヤツだな。


「次はっと……」


「ふふ、レフィーお嬢様、頑張って下さい! ファイトです!!」




 焼け野原となった荒野に、オークエンペラーの声にならないくぐもった悲鳴が響き渡った。

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