第21話 第一段階

「では、失礼いたします」


「へ?」


 あれ? おかしいな。

 カッコ良くビシッと決めて、眷属であるシルヴィアを引き連れて歩き出そうとしたのに……何か抱っこされたんですけど!?


 これじゃあ格好がつかないし、威厳なんてあったもんじゃない。

 でもまぁ、今の私は生後2日目の赤ちゃんだし。

 不本意だけどステータスにも幼体ってガッツリ書いてるし……うん、別にいいや。


 これでも前世と前前世を合わせたら30歳だけど、三十路のアラサーだけど!

 細かい事は気にしない!!

 だって、楽だしね。

 さぁ、いざ行け! 我が眷属、シルヴィアよっ!!


「レッツゴー!」


「ふふ、かしこまりました」


 こうしてシルヴィアに抱っこされながら運搬してもらって、その間に周辺調査の結果を聞く。

 うん、我ながら完璧な計画だ。


 特に自分で歩いてないってところが素晴らしい!

 軽やかに地面を蹴ったシルヴィアに抱っこされながら、ごく自然に空を飛んでるけど……まぁ、うん、何も言うまい。


「シルヴィア」


「はい、では周辺調査の結果をご報告させていただきます」


 名前を呼んだだけで、私の言わんとする事を汲み取るこの阿吽の呼吸!

 流石はシルヴィア、前世から合わせて十数年一緒にいるのは伊達じゃない!!


「お嬢様の命を受け、この大陸を一通り見て回りましたが、ここ周辺に危険度の高い魔物は存在しませんでした。

 強くても、せいぜいがエルダーリッチ程度でございます」


「ふ〜ん……」


 あれ? 今凄いことを言われた様な気がするんだけど。

 ナチュラルに空を飛んで移動してるのはまだ良い。

 何せシルヴィアは、一撃でエルダーリッチを瀕死に追い込んだ超巨大な雷を降らせる事もできる訳だし。

 でも……でもだよ?


「大陸を一通り?」


「はい、大陸を一通りです」


 マジですか!

 えっ、じゃあ何!? 私が自分のスキルとかを検証してる間に、シルヴィアはこの大陸を一周したって事っ!?


 やべぇ、メイドのスペックが高すぎる件。

 もうぶっちゃけ、シルヴィアだけで勇者達をぶちのめせる気がしてきた……


「とは言え、ザッと見て回った程度なのですが。

 我々のホームであるあの洞窟は、大陸の中心に位置しているようです。

 そして大陸の四方に一体ずつ特に力の強い個体が君臨しており、その個体を頂点に生態系が形成されております」


「強い個体……」


「はい。

 少なくとも、今の私と同等かと」


 マ、ジ、で、す、か!

 今のシルヴィアと同等……しかも、少なくともって……邪神め! なんちゅう場所に転生させてくれてんのじゃっ!!


「ふふ、大丈夫ですよ。

 レフィーお嬢様は原初の悪魔。

 私は当然として、これから生まれてくるであろう、全ての悪魔の頂点に立つお方なのですから」


「でも……」


「確かに今のレフィーお嬢様では力不足です。

 しかしながら、レフィーお嬢様はまだまだ赤ちゃんですからね。

 すぐにでも私など圧倒するお力を身に付けられる事になると、私は確信しております」


「むぅ……」


「レフィーお嬢様、面倒がってはいられませんよ?」


 べ、別に面倒がってなんかいないよ?

 超ハイスペックメイドのシルヴィアに全部任せて、私はふかふかなベッドでゴロゴロしたいなんて全く思ってないからね!?


「それにきっと、その者達の魂はエルダーリッチよりも美味しいですよ」


「っ!!」


 エルダーリッチよりも……だと?


「ふ、ふふ……ふっふっふ!」


 私が目指す勇者共への復讐は、物理的には勿論、社会的にも徹底的に潰す事。

 という訳で……


「シルヴィア、決めた」


「何をですか?」


「まずは手始めに、この大陸を平定する!!」


 憎っくき我が祖国は、今や世界最大にして最強の超大国。

 奴らへの完全な復讐を果たすためには、そのプライドを叩き折る事は必須!


 そのために、圧倒的な国力を誇る大陸国家を作り上げる。

 そんでもって、私の最終目標である平穏で自由な生活を送るための下地も作る事ができる。

 うん、完璧だわ。


 別に魂を食べたいから、この大陸を平定する訳じゃない! そりゃまぁ、それも多少はあるけど……

 これは歴とした作戦!

 私の目的を果たすためのプロセスなのだ!!


「さぁ、作戦の第一段階を始めよう」

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