第3話 取り敢えず、寝よう

 微睡から目が覚めたら……知らない光景が広がっていた。

 そこそこの広さ、具体的には学校の体育館程度の空洞があるだけの薄暗い洞窟。


 うん、比喩でも何でもなく、本当に知らん景色だわ。

 目が覚めたら突然洞窟の中って……拉致ですか? テレビのドッキリかなんかですか?


 って、あれ? テレビ……ドッキリ……あぁ、何か記憶が混濁してるわ。

 俺は確か病院で死んで神様に会って……いや、違う私は殺されたんだ。


 あの国に、国民達に、勇者に、聖女に!

 クズみたいな人間共に……私は大切な人達と一緒に、この世界に皆殺しにされたんだ。


「ふぅ」


 ……まぁ何はともあれ、とりあえずは一旦落ち着いて現状確認!

 あの時の事は、今ここで考えても無駄だし……


「まずは……」


 混濁してる、この記憶の整理からだな。

 ノアール様……いや、ノアール達に処刑されたのは事実として、俺が病院で死んだのもまた事実。

 〝私〟じゃなくて〝俺〟ここ重要。


 あぁ……色々と思い出してきた……そうか、これは私の〝前世〟の記憶なんだ。

 と言う事は……うわぁ、私って結構ハードモードな人生送ってたわ。


 つまりはだ、病弱だった〝俺〟は、治療の甲斐なく病院のベッドの上で息を引き取ったと。

 享年15歳、泣いちゃいそう。


 その後、ファンタジーよろしく、女神様に会って生まれつき病弱だった理由が判明。

 確か……魂の不適合だったかな?


 地球は空気中の魔素濃度が極端に低い。

 魔素を持っている生物は一切存在せず。

 人間を含め、殆どの生物は魔素が必要のない魂になっている。


 けど〝俺〟は神様の不手際によって、多少の魔素を持ったまま地球に産まれた。

 当然、魔素を必要とする魂で……そりゃ不適合だわ。


 初めは体内に僅かながらも魔素が存在したけど……何らかの要因で枯渇。

 そういえば、まだ倒れる以前の子供の頃は、病弱ながらもスポーツ万能で天才少年とか言われてたなぁ……


 はい、これ原因。

 知らず知らずのうちに、無意識で体内の魔素を使って身体能力を底上げしてたって訳ね。

 そして、地球にはそもそも魔素が存在しない。


 だから魔素を持つ〝俺〟の魂自体が地球に適合出来ず、とある欠陥を齎らした。

 魔素回復不全という、魔素を必要とする存在にとっては死活問題となる欠陥を。


 これがもし、地球ではなく〝私〟が生まれた世界なら。

 他の魔素が存在する世界なら、例え魔素回復不全でも空気中から魔素を取り入れて何とかなったんだけど……


 そんな訳で、享年15歳で死亡。

 神様に散々謝罪されて、お詫びにと転生を提案される。

 最初は断ったけど、詫びをさせて欲しいと神様が泣き出しちゃった為に転生を承諾。


 神様は言った。

 転生特典として、どんなチート能力でも授けてあげると。

 ラノベみたいなテンプレ展開! って、テンションは上がったけど……


 ぶっちゃけ、〝俺〟としての人生にそんなに未練は無かった。

 とはいえ、健康な身体でまた空の下を走りたい気持ちはあった。

 だから健康な身体と、平和に暮らしていけるだけの身分があればそれでいいと言ったら……


 神様は若干困った様子で苦笑いを浮かべ……直後、神として詫びるのにも面子があると、また泣きつかれた。

 神様のせめてもの償いとして、心の底から願った事が何でも1つだけ叶うって祝福を授かり、〝俺〟は転生を果たした。


 そうして〝俺〟が転生して〝私〟になった訳だけど……結局殺されてるんですけど!?

 しかも魂への負担を抑えるためとかで、前世の記憶が戻るのはあの世界での成人、つまりは15歳。

 そんでもって、首チョンパされる直前に記憶が戻ったって事は……


 転生までして享年15歳って……しかもTSしてるし……いやまぁ、それはどうでもいい。

 大事なのは何処かは知らんけど、殺されたはずの私がここにこうしているって事は……


「……とりあえず、寝よう」

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