都編
都入り(1)
18日後、予定より早く都に着いた。
「帰ってきましたねー!」
「この距離を行きも歩いてきたんですか…?」
「はい。そうです!」
「体力が化物並みだ…。」
すると、都の門の前で多くの軍人が待っていた。
「「お帰りなさいませ!ソフィア王女!」」
「はい。ただいま帰還しました。」
すると、その軍団は姫様を囲むように並んだ。
その中の一人が、姫様に声をかけた。
「これから城に向かわれますか?」
「いえ。まずこの者に、用意させた家を案内します。その後は、温泉にいきます。長旅で疲れました。」
「承知しました。おい!担当の者!姫様を、用意した家の場所まで案内してさしあげろ!」
「「はっ!」」
俺はその連帯感に圧倒された。
「姫様。良ければ馬車をご用意しますが。」
「このまま歩きます。」
「承知しました。」
(本当に歩くのが好きなんだな…。)
「それより、用意させた家はどんな所ですか?」
「はい。都の中心に近く、部屋も大きいです。また、近所には都で有名な、腕のいい鍛冶屋もあります。」
「なるほど。完璧ですね。よく用意してくれました。」
「恐れ入ります。」
すると、シモンさんがその騎士に言った。
「すまない、フィリップ。できればアイリスを呼んできてくれないか。俺は姫様が城に着くまで護衛するつもりだが、温泉の中までは流石に守れないんでな。女の騎士がほしい。」
「通常の騎士ではダメか?それに、一応あいつは討伐隊だぞ?」
「非常時に指導者がいないと混乱する。いつでも、一人頼れるやつを姫様の側に置いておくべきだ。」
「…それもそうだな。分かった。第1隊3班はアイリス隊長を呼んでこい!」
「「はっ!」」
そんなやり取りをしている間、俺は空気になることに徹した。
この疎外感。早く解放されたいものである。
しばらく歩き、ある家の前で行列は止まった。
「ここが今日から貴方が住む家です。すぐに住めるように、必要な家具などは用意させました。」
予想以上に大きかった。もう、ここで鍛冶屋を開けそうなくらいだ。
「あの…この家って、いくらほどですか。」
「そうですねー。ざっと4億エルサですかね。」
「…あの。俺、そんなにお金を持っていないのですが…。」
すると、姫様はため息をついた。
「あなたは私が直々に入隊を許可した特待生なのですよ?この家くらい、国が支給します。」
「家が支給…。」
「はい。そうです。」
「…ありがとうございます。」
俺はしばらくその家の大きさをまじまじと見つめていた。
「…では、私も温泉に行きたいので、この辺で。一週間ほどすれば、入隊の案内が来ると思います。その指示通りに動いていただければ大丈夫です。それでは、また会いましょう。」
「はい。」
そう言って、姫様は軍を連れて温泉に向かった。
「…とりあえず中に入るか。」
俺は持っていた荷物を部屋においた。
「…殺風景だな。」
俺は棚の中なども調べた。どうやら、一通りの食器は揃っているようだ。
「後は井戸の位置を確認しないと…。」
俺は外に出た。
「いらっしゃい!いらっしゃい!果物が安いよ!」
「肉ー!肉があるよー!今日は珍しい、鹿肉があるよー!」
「魚ー!鮮度抜群の魚はいかがですかー!サンマが五本で400エルサですよー!破格ですー!」
市場は人々の活気が渦巻いていた。
「あ…ぁぁ…。」
俺はまたも人数の多さに圧倒され、固まってしまった。
「どけ!邪魔だ!」
「すみません…。」
道の真ん中を通っていると、牛車や馬車が間髪いれずに通ってくる。
俺は道の端に寄った。
「…井戸は…どこだ…。」
街中を歩き回ったが、何処にも井戸がない。
終いには、今何処にいるのかが分からなくなってしまった。
(慣れない土地は大変だな…。)
夜になったが、一向にその賑わいは衰えない。
(ダメだ…井戸は明日にしよう…。まずは家に帰らないと…。)
俺はそのまま街をふらついた。
(…ん?)
ある路地を見つけた。
見てみると人気は少なく、休憩には丁度いいように見えた。
「ちょっと休むか…。」
俺はその路地に入った。
(…それにしても、見事に人がいないな。これは初日早々、穴場を見つけたかもしれない。)
などと考えていると、路地の奥から人が歩いてきた。
俺は路地が狭いことは分かっていたので、半身になって道を開けた。
すると、男はいきなりナイフを構えた。
「あー…金よこせ。抵抗したら殺して盗る。」
「…!」
俺はすぐに刀を抜いた。
しかし路地は思った以上に狭く、長い刀は扱いづらかった。
(ここは相手の戦場ってわけか…。)
分が悪いと察し、俺は相手に剣先を構えながら後退り、路地を出ようとした。
しかし今度は後ろからも別の男が現れ、挟まれてしまった。
(きついな…。)
俺は両方向に注意を払いながら、この状況から抜け出す手段を探した。
すると、男が声をかけてきた。
「あー…分からないか?ここは俺達のシマだ。この路地じゃあ、俺らに勝てるやつはいねぇよ。」
そう言うと、男が一発切りかかってきた。
俺はその男の斬撃をいなした。
すると、間髪いれずにもう一人の男が攻撃を仕掛けてきた。
俺はそれを体を捻ってかわした。
すると、またも男が攻撃を仕掛けてきた。
その攻撃は止むことを知らないように次々飛んできた。
(連携がすごい…まるで狼だ…。)
俺は男を峰で打ち、一度間合いをとった。
(…どうする。)
俺は、自分にできることを考えた。
突き、袈裟斬り、胴斬り、小手斬り、脛打ち。
狭いので、恐らく胴切りは無理だろう。となると、相手を殺す前提なら、やはり袈裟斬りが一番良さそうだ。
しかし、都に来て早々人を殺すわけにもいかない。
(…。)
俺は良いことを思い付いた。
俺は刀を上段に構えた。
そして、相手が斬りかかってくるその瞬間に振り下ろし、ナイフを斬った。
「あ"ぁ"!?ナイフが斬られたぁ!?」
返す刀で、もう一人のナイフも斬った。
「げっ!」
「あー…マジか。その切れ味。」
刃が無くなったナイフを見て呆然とした二人は、舌打ちをして路地の奥へ消えていった。
「…ふぅ。」
どうやら、なんとかなったようだ。
俺は刀をしまい、路地を出た。
(次からは路地に入らないようにしよう。)
それにしても、この町にはどうやらあのような蛮族がいるらしい。注意をせねば。
俺はその後なんとか帰宅し、一日を反省した。
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